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2021.06.16

特許第2部:峰岸 真紀

【特許・意匠ニュース】ブラジル、特許権存続期間に関する最高裁判決:医薬品等の特許権の存続期間の延長(特許付与日から10年)は遡及的に失効

ブラジル最高裁判所は、ブラジル産業財産法第40条補項「特許権存続期間は、特許付与日から起算して、特許権(発明特許)の場合は10年未満であってはならない」は違憲であると判決しました。

2021年5月12日付の最終判決では、上述のブラジル産業財産法第40条補項の具体的な適用内容に関する判断がなされました。2021年4月7日に公表され、その翌日に明確化された仮処分の内容、および2021年5月18日付のブラジル知的財産庁からの通知の内容とあわせると、影響は以下の通りです。


特許出願/特許権の状況 判決の影響
(a) 第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権であって、その主題が医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材である特許権 第40条補項に基づく存続期間の延長は遡及的に失効し、存続期間は出願日から20年となる。
(b) 第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権であって、すべての技術分野に関する、(仮処分命令がなされた)2021年4月7日までに提起された訴訟において、第40条補項による存続期間延長の有効性が争われている特許権 第40条補項に基づく存続期間の延長は遡及的に失効し、存続期間は出願日から20年となる。
(c) 第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権であって、上記(a)および(b)以外である特許権 第40条補項に基づく存続期間の延長は維持される。
(d) すべての技術分野に関して、2021年5月13日以降に、ブラジル知的財産庁により付与される、すべての特許権 存続期間は、出願日から20年となる。
(e) 医薬品および医薬的な方法、および健康目的で使用される機器および/または素材を主題とする、(仮処分命令発行後である)2021年4月8日より後に付与された特許権 存続期間は、出願日から20年となる。



詳細

ブラジルの産業財産法
現行のブラジルの産業財産法では、特許権存続期間について第40条で以下のように定められています。

第40条
出願日から起算して、特許権は20年の期間、実用新案権は15年の期間について効力を有する。
補項 特許権存続期間は、特許付与日から起算して、特許権(発明特許)の場合は10年未満、実用新案権(実用新案特許)の場合は7年未満であってはならない。ただし、ブラジル知的財産庁が、係属中であることが確認されている訴訟または不可抗力のために、出願の実体審査をすることができなかったときは、この限りでない。

仮処分命令
ブラジルにおける特許権存続期間の最低期間に関する訴訟(事件番号5529)に関し、ブラジル最高裁判所は2021年4月7日に仮処分命令を公表しました。そこで、ブラジル知的財産庁により付与される、医薬品および医薬的方法、および健康に関する目的で使用される機器および/または素材に関する(以下、「医薬品および医療機器等に関する」と略記)すべての特許出願の存続期間は、出願から20年とすることが発表されました。すなわち、これら出願には、第40条補項で定められている、「特許権存続期間は、特許付与日から起算して、特許権の場合は10年未満であってはならない」が適用されないことになりました。

2021年4月8日には、この仮処分命令は以下のように明確化されました。
・医薬品および医療機器等に関する特許出願であって、特許付与日から10年間の存続期間を有する、登録済の出願では、その存続期間が維持される
・ブラジル知的財産庁により、この日(2021年4月8日)より後に新たに付与される、医薬品および医療機器等に関する特許出願の存続期間は、出願日から20年に限られる

判決
2021年5月6日には、ブラジル最高裁判所は、産業財産法第40条補項がブラジル憲法に違反していると結論付けました。

2021年5月12日に、本件の裁判が終了しました。そして、付与済の特許権においてどのように遡及的な効力が生じるのかという点や、今後付与される特許権がどのように影響を受けるのかという点について、以下のように決定されました。

(i) すべての技術分野に関して、【本最高裁判決が完全に発効した後に】ブラジル知的財産庁により付与されるすべての特許権においては、その存続期間が出願日から20年となる。
*最高裁判決が完全に効力を発する日については未だ議論があるようです(判決全文の公開後、訴訟当事者や関係者から提出される明確化申立てなどにより、修正される可能性も残っている)。ただし、実務上は本判決の要約が官報告示された2021年5月13日が完全な発効日と把握される可能性が高く、現にブラジル知的財産庁は下記の通り2021年5月13日を発効日とする運用を公表しています。

(ii) この違憲判決は、以下の2種類の特許権の存続期間を遡及的に短縮させる。すなわち、第40条補項に基づく存続期間の延長は遡及的に失効し、存続期間は出願日から20年となる。
・第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権であって、すべての技術分野に関する、(仮差止命令がなされた)2021年4月7日まで提起された訴訟において、第40条補項による存続期間延長の有効性が争われている特許権
・第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権であって、医薬品および医療機器等に関する特許権

(iii) 最高裁判所は、上記(ii)で言及されている2種類の特許権に関して、その存続期間が短縮される前の、特許権が有効である間にすでに生じていた具体的な効果を保護する。

すなわち、上記(ii)で言及されている2種類の特許権以外の、第40条補項に基づく存続期間の延長が認められている特許権については、その権利期間は維持されます。

上記(iii)に関して、法的安定性を守るため、最高裁判所はこの判決による影響を最小限にしたようです。具体例としては、以下が挙げられます。
・すでに支払ったロイヤルティーに関する損害賠償を請求する権利はない
・より安く入手可能であったはずの場合、特許権に関する製品を購入したことによる損害賠償を請求する権利はない

最高裁判所は判決文全文を近日中に発行予定です。

ブラジル知的財産庁による通知
2021年5月18日付のブラジル知的財産庁からの通知において、2021年5月13日以降に付与された特許権には40条補項に基づく存続期間の延長は適用されないと明記されました。

さらに、2021年5月14日時点で存続していた医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下のように対応されることが発表されました。
・第40条補項に基づく存続期間の延長が認められていて、出願日から20年を経過していない特許権(または出願日から15年を経過していない実用新案権):存続期間が変更された特許証が再発行される。
・第40条補項に基づく存続期間の延長が認められていて、出願日から20年を経過した特許権(または出願日から15年を経過した実用新案権):存続期間が変更された特許証が再発行され、存続期間満了となる。

なお、上記特許証の再発行の対象となる医薬品および医療機器等に関する特許権は、以下の基準に基づき選択されます。
1. 事前承認を得るためにブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に送られた特許権
2. 国際特許分類(IPC)が A61B, A61C, A61D, A61F, A61G, A61H, A61J, A61L, A61M, A61Nまたは H05G(世界知的所有権機関 (WIPO)により医薬品に関連する技術とされている)である特許権
3. IPC分類が A61K/6, C12Q/1, G01N/33またはG16Hである特許権
4. 判決が code 19.1 で公表された特許権
5. 追加証明書

弊社では、引き続き情報収集を進めて参ります。

(参考)
ブラジル最高裁判所:判決ADI 5529
http://portal.stf.jus.br/processos/detalhe.asp?incidente=4984195
ブラジル知的財産庁による通知(2021年5月18日付)
http://revistas.inpi.gov.br/pdf/Comunicados2628.pdf

Daniel事務所(リオデジャネイロ)
Kasznar Leonardos事務所(リオデジャネイロ)
(事務所名はアルファベット順)

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