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2007.08.15

【Cases & Trends】特許権者へさらなる一撃? 「予見可能性テスト」をめぐりCAFCが下した最新フェスト判決

去る7月5日、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が『フェスト事件』の判決を下しました。最初の提訴から実に20 年近く続いている本件は、これまでに2 度のCAFC 大法廷判決と2 度の最高裁判決が下されており、特に均等論適用に関し実務上の大きなインパクトを与えてきました。今回下された判決は、2002 年の最高裁判決で示された「予見可能性テスト(foreseeable test )」を適用すべく差し戻された事件に基づき下されたもので、同テストを厳しく解釈し、非侵害認定を確認しています(Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo a/k/a SMC Corp., Fed.Cir., 7/5/07 )。

KSR事件(自明性TSM テスト見直し)、MedImmune 事件(確認判決訴訟提訴要件緩和)、eBay 事件(差止め救済要件厳格化)など、「特許に厳しい」最近の最高裁判決に続き、新たな一撃を特許に加えるもの、といったコメントも聞かれます。……が、そもそも「予見可能性テスト」とはどのようなものだったでしょうか? 以下、今回の判決文から均等論をめぐる判例の流れをおさらいしつつ、「新たな一撃」の意味を探りたいと思います。

7/5/07 CAFC判決文より

『……Graver Tank & Manufacturing Co. v. Linde Air Products Co. 事件(339 U.S. 605(1950)) において、最高裁は、当該均等物がクレーム文言からの「非実質的(insubstantial )」変更にすぎない場合、均等論が適用されると述べている。最高裁はまた、「被告製品が、同一の結果を得るために、実質的に同一の態様で、実質的に同一の機能を果たす場合、特許権者は当該製品の製造者に対し均等論(に基づく侵害) を主張することができる」と説明した。

Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co.(520 U.S. 17 (1997)) 事件において最高裁は、均等論適用における判断基準として「非実質的差異」テストを採用すべきか、「(機能、態様、結果の)三部同一性」テストを採用すべきかを検討した。結局、最高裁は、「どちらのテストがより適切であるかは、各ケースの背景事実により異なる」として、いずれか一方のテストを採用することはしなかった。

審査経過禁反言(prosecution history estoppel)とは、「均等論に対する法律上の制限」として作用する。この法理は、「特許権者が、特許取得過程において一度放棄した主題を後になって取り戻すことを禁ずることにより、特許権者に利用可能な均等の範囲を制限する」(Southwall Techs., Inc. v. Cardinal IG Co., 54 F.3d 1570(Fed.Cir. 1995) 特許権者側には、審査中の補正の理由が特許性とは関係ないことを立証する責任があり、この立証責任を果たせない場合、裁判所は、特許権者が「補正によって追加された限定要素を含ませたことについて、特許性に関する実質的理由を有していた」ことを推定する。特許性に関する実質的理由がある場合、「審査経過禁反言の法理により、当該限定要素については均等論の適用が禁じられる。」 しかしながら、Festo VIII 事件(535 U.S. 740(2002) )において、最高裁は、3 つの適用除外要件を示し、これらのうちいずれかひとつを示せる場合、かかる補正によっても特定の均等物については放棄していないことを証明することができると述べた……。

本件においては、まさにその適用除外要件のひとつ、「当該均等物が、出願時点において予見不可能であった」のか否かが問題となっている。最高裁からの差し戻しを受けて、当裁判所は「補正時において予見不可能であった」とは、「均等(と主張されているもの)が、当該補正の時点で当業者にとって予見可能であったか否か」を意味するものと結論付けた。当裁判所は、後に開発された技術や、関連する先行技術分野において知られていなかった技術は、「通常は」予見不可能であると述べた。一方、当裁判所は、「古い技術は、常に予見可能であるとは限らないが、予見可能である確率が高い。事実、主張されている均等物が、当該発明に関わる先行技術分野において知られているものであるならば、当該補正時においても予見可能であったに違いないといえる」と述べた。

……均等物の予見可能性について原告フェストは、補正時における機能/態様/結果テストに基づき予見可能性を判断しなければならないとして、以下のように主張した。
「適切な予見可能性テストとは、主張されている均等物が、クレーム発明を達成すること(すなわち、同一の結果を達成するために、実質的に同一の態様で、実質的に同一の機能を果たすこと)が当業者にとって予見可能であったか否かを、当該補正時点においてのみ入手可能であった情報に照らし、判断することである」

フェストは、アルミニウム合金スリーブを使用すること(フェストが均等を主張している被告装置の要素)は、フェスト特許の補正時において予見不可能であったと主張する。当時、アルミニウム合金が磁気シールド機能を有することが知られていなかったからである……。

当裁判所は、予見可能性テストが機能/態様/結果テストあるいは非実質的差異テストの適用を要するという主張を退ける。代替物(均等であることが主張されているもの) は、それが当該発明分野における関連先行技術に開示されていれば、予見可能であったといえる。換言すれば、代替物は、補正前のクレーム範囲に反映されている発明分野において知られているものであるならば、予見可能であったといえるのである。』

ニューマン判事の反対意見:

「本件において残っていた唯一の争点は、FestoVIII事件で最高裁が示した均等論の法理を、被告SMCのロッドレスシリンダの技術的事実に適用することのみであった。にもかかわらず、本件を扱った当裁判所多数意見は、「予見可能性」に関する新たな、かつ誤った判断基準を創造することにより問題を混乱させてしまった。すなわち、代替構造は、それが後になって均等なものとして使用されるのであれば、出願時または補正時において均等と認識されている(あるいは認識可能である) 必要がない、というのである。これは先例および最高裁が示した指針からの大きな乖離である。……多数意見は、(均等であると主張されている)アルミニウム合金シールドは、補正時において均等物であることが知られておらず、均等物であるとみなされていないにもかかわらず、後に均等物として使用されているのであるから、遡及的に補正時において予見可能と判断した。予見可能性とは、後知恵(hindsight )とは異なるものだ……」

“The Legal Intelligencer”(7/18/07) コメント:

「今回CAFC判決が示したのは、極めて困難な基準だ。特定のクレーム要素を記載する際に、当業者が使用するであろうすべての機能的均等を考慮することだけでも十分困難な作業であるのに、今回の判決は出願人に対しこれ以上の作業を要求している。……このような作業を首尾よくこなすためには、タイムトラベルや超能力といった特殊スキルを修得することが必要となろう。」

=>判決原文 http://www.fedcir.gov/opinions/05-1492.pdf

(渉外部・飯野)

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