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2014.06.20

【Cases & Trends】 番外編 = セミナー開催報告 = 緊急フォローアップセミナー: 中国の最新「職務発明条例」案改訂版

NGBでは、去る5月29日(大阪)、同30日(東京)、6月2日(東京)と、3日間にわたり標題のセミナーを開催いたしました。いずれも定員を上まわる70名超の方が参加され、多めにとっておいた質疑応答時間も常にオーバーするという熱気あふれるセミナーとなりました。本稿では、そのセミナーで得られた知見の一部をご紹介します。

「フォローアップ」と題する本セミナーのフォロー対象は、中国国家知識産権局(SIPO)が2012年11月12日付で発表し、パブリックコメントを募集した「職務発明条例草案」(「意見募集稿」)です。同条例案の意味するところ、今後の展望、留意点を探るべく、北京市天達律師事務所の張青華弁護士を招へいし、緊急セミナーを開催したのが2013年の1月末でした。そして2014年4月1日、提出されたコメント(最終的に75部に及んだとのことです)を踏まえ、かつ関連機関、企業、識者との協議、検討を重ねたうえで、職務発明条例草案の改訂版(「審議稿」)がSIPOより発表されました。今回のセミナーは、まさにこのタイミングを受け、再び張弁護士を招へいし、開催したものです。

冒頭、張弁護士は、本条例起草の基礎に立ち返り、今後の展望に触れました。すなわち、本条例起草の根拠は、「国家中長期人才発展計画概要(2010年~2020年)」にあり、広く国家としての人材育成に向けた数々の法案が用意されている。本条例草案もそのうちのひとつ。したがって、発明者側に偏り、企業サイドに過度の負担を強いるおそれがあることのみを理由に、廃案になるということは考えられない(無論、特に外資系企業からの不評に立法者も頭を悩ませているが)。さらに、今回「審議稿」という形で発表されたということは、本草案が国務院へ送られることが前提になっており、遠からず何らかの形で採用されることになる、というものです。このような立法背景を踏まえ、張弁護士は以下4項目を「草案(審議稿)起草の基本原則」として掲げました。
1. 職務発明奨励の原則
2. 権利義務の均衡原則(単位および発明者間での権利義務の均衡を重視)
3. 発明者の知情権(知る権利)
4. 約定優先原則及び最低保障原則

この原則の中で、外国/外資系企業が最も気にするのが「約定優先原則及び最低保障原則」です。すなわち、「法規定がどれほど厳しい内容であっても(高額の補償金や発明者への報告義務)、企業自身の契約や社内規程が優先することが明記されていれば、あとは自分たちでなんとでもできる」わけですから(本条例案が出る前の特許法、実施細則の規定範囲では少なくともこうなっていた)。ところが、契約自由の原則を認めつつ、本条例案にはところどころ一定の制限が設けられており(突然いくつかの条項に、「この規定は強行規定であり私的契約で排除することはできない」旨の記載が現れる)、明確な線引きがなかなか難しい。米国ABA(法曹協会)は当初案に対し、とりわけ契約優先がすべてに及ぶよう明確にすることを要求していました。

今回の改訂版でそこがどう変わったか見てみましょう。特に批判の的になっている第三章「発明の報告と知的財産権の出願」(第10条~16条)の規定を比較してみます。(和文はJETRO訳より)

第一章 総則
第二章 発明の権利帰属
第三章 発明の報告と知的財産権の出願
第四章 職務発明の奨励と報奨
第五章 職務発明の知的財産権の運用実施の促進
第六章 監督検査と法的責任
第七章 付則

第10条 (2012年草案と2014年草案に違いなし)
事業体が別途規程を有し、もしくは発明者と別途約定がある場合を除き、発明者は事業体の業務に関わる発明を完成させた後、発明の完成日から2カ月以内に事業体に対し当該発明について報告しなければならない。…

第11条 (2012年草案)
発明報告書には下記の内容を含まなければならない。
(一)発明者の氏名
(二)発明の名称と内容
(三)発明が職務発明かまたは非職務発明か、およびその理由。
(四)発明者が説明を要するとみなすその他の事項

第11条 (2014年草案 – 追加文言あり。末尾の一文)
発明報告書には下記の内容を含まなければならない。
(一)発明者の氏名
(二)発明の名称と内容
(三)発明が職務発明かまたは非職務発明か、およびその理由。
(四)発明者が説明を要するとみなすその他の事項
発明報告書の内容について別途約定がある場合、事業体と発明者は、当該約定に従う。

第12条 (2012年草案)
発明者が報告した発明は非職務発明に属すると主張する場合、事業体は第11条の規定を満たす報告書を受け取った日から2カ月以内に書面で回答しなければならない。事業体が上記期限内に回答しない場合、当該発明が非職務発明であることを認可したものとみなされる。

第12条 (2014年草案 – 追加文言あり。末尾の一文 *および2012年草案の13条を統合)
発明者が報告した発明は非職務発明に属すると主張する場合、事業体は第11条の規定を満たす報告書を受け取った日から2カ月以内に書面で回答しなければならない。事業体が上記期限内に回答しない場合、当該発明が非職務発明であることを認可したものとみなされる。
前期期限について別途約定がある場合、事業体と発明者は、当該約定に従う。…

上記の通り、改定草案第11条では、一見報告書の内容について契約で自由に定めることを認めているようですが、第12条の追加文言を併せ読むと、自由とはいえ少なくとも「期限付きで発明者に回答をする義務は回避できない」ことになります。張弁護士も、「2ヶ月で短いと思えば、3ヶ月と変えることは自由」と説明されていました。
このように、契約自由の原則とその例外が、唐突に出てきて混乱を誘うのです。

この問題に関連し、Q&Aにおいて次のような質問が出されました。
「他の規定もそうだが、発明の報告においても、違反に対する具体的罰則規定はない。したがってこのような企業側の報告義務を定めなくとも、実質的には問題は生じないのでは?」
これに対する張弁護士の回答は次の通りです。
「確かにそうなのですが、これを不服とした従業員が、政府の知的財産主管部門に申告する可能性があります。主管部門はこれを受け、法に基づく対応がなされていないとして、指導や罰則を課す場合があります(第6章 監督検査と法的責任)」

今後の対応としての張弁護士のアドバイスは、前回の緊急セミナーのときと同様、条例の行方をウォッチしつつ、いまから現行規程・約定の再検討を進め、公布・実施に備え、十分な準備をしてくことです。今回、ひとつ違うことは、昨年のセミナー時と比べ、本条例の成立可能性がより高まり、より間近に迫りつつあることです。

(営業推進部 飯野)

[テキストより抜粋]
[講師の張青華弁護士]
[東京会場]
[大阪会場]

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