IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2017.11.07

中国:不正競争防止法の改正が可決~改正法は2018年1月1日から施行

日本技術貿易株式会社 顧問
中国弁護士・中国弁理士・日本付記弁理士
張 華威
 2017年11月4日、中国の大手国営通信社である新華社は、第12期全国人民代表大会常務委員会第30回会議において、不正競争防止法の改正が可決されたと発表した。本法改正は、1993年に制定された現行の不正競争防止法(以下、単に「現行法」という)に対する初めての改正である。改正後の不正競争防止法(以下、単に「改正法」という)は、2018年1月1日から施行される。

 改正法の第二章では、商標法との衡平を図るために商標法において規制すべき内容が削除され、独占禁止法との衡平を図るために不当な取引制限、不当廉売、抱き合わせ販売などの独占禁止法で規制されるべき内容が削除され、広告法との衡平を図るために、広告業者を規制する規定が削除され、不正競争防止法の位置づけがより明確になった。そして、改正法において、不正競争行為の態様は、1.混同行為、2.商業賄賂行為、3.虚偽宣伝行為、4.営業秘密侵害行為、5.景品付販売行為、6.業務信用棄損行為、7.インターネット上の不正競争行為の計七種類が規定され、1~6については、現行法の規定に基づいて、部分的な内容の調整、詳細化、明確化などを施しており、7は、オンライン取引が普及している中国市場の実情を鑑みて、インターネット上の取引秩序を維持するために増設された内容である。

 さらに、第三章において、行政監督機関に対して、不正競争を行っている疑惑のある営業場所への現場調査、契約書・財務帳簿・その他資料の閲覧や複製、不正競争に関連する財物の封印や差押、不正競争を行っている疑惑を有する事業者の銀行口座の照会などの強制措置を行う権限を認め、何人も監督機関に対して通報することができるようにし、通報を受けた監督機関は遅滞なく処理する義務を設けた。これにより、不正競争行為への取り締まりの実効性が期待できる。

 そして、第四章においては、第二章に規定する各不正競争行為に対する罰則が設けられており、現行法と比べて著しく強化された。

 以下、改正法第二章に規定されているそれぞれの不正競争行為について詳細に説明する。

1. 混同行為
 企業名称や個人の氏名については略称等を含むことを明確化し、且つ一定の影響力を有する他人のドメインネームの主体部分、ウェブサイトの名称、ウェブページなどを模倣する行為についても明確に混同行為として規定し、他人の商品にかかるものであり又は他人と特定の関係があると誤認させる行為に関して受け皿規定を設け、不正競争による保護の範囲を拡大した。
第6条 事業者は下記に掲げる混同行為を行うことにより、他人の商品にかかるものであり又は他人と特定の関係があると誤認させてはならない。


(一) 無断で他人の一定の影響力を有する商品の名称、包装、装飾等と同一または類似する標識を使用すること
(二) 無断で他人の一定の影響力を有する企業名称(略称、商号等を含む)、社会組織の名称(略称等を含む)、氏名(筆名、芸名、訳名等を含む)を使用すること
(三) 無断で他人の一定の影響力を有するドメインネームの主体部分、ウェブサイトの名称、ウェブページ等を使用すること
(四) その他の他人の商品にかかるものであり又は他人と特定の関係があると誤認させるに足りる混同行為


2. 商業賄賂行為
 現行法では、商業賄賂の概念があやふやであったところ、改正法において利益供与する相手方を限定列挙し、認定を容易にした。また、事業者の従業員の行為を原則事業者の行為として認定する旨を明確にすることにより、事業者が贈賄は従業員個人の行為であるとして責任逃れすることの防止を図っている。


第7条 事業者は、財物又はその他の手段により下記単位又は個人に賄賂を行い、取引の機会又は競争の優位を図ってはならない。
(一) 取引の相手方の従業員
(二) 取引の相手方の委託を受けて関連する業務を実行する単位又は個人
(三) 職権又は影響力を利用して取引に影響を及ぼす単位又は個人
 事業者は、取引活動において、明示の方法により取引の相手方に割引価格を支払い、仲介人に手数料を支払うことができる。事業者が取引の相手方に割引価格を支払い、仲介人に手数料を支払うときは、如実に帳簿に記載をしなければならない。割引価格、手数料を受け取った事業者も、同様に如実に帳簿に記載をしなければならない。
 事業者の従業員が賄賂を行った場合は、事業者の行為として認定しなければならない。ただし、当該従業員の行為と事業者の取引の機会又は競争の優位を図ることが無関係であることを事業者が証拠により証明できた場合を除く。


※「単位」とは、法人、機関、組合などをいい、「組織」に類似する概念である。

3. 虚偽宣伝行為
 オンラインショッピングにおいて、出品者がいわゆる「サクラ」に大量の虚偽の取引を行わせ、販売履歴やユーザレビューを偽造する現象が多く発生している。このような事態を規制するため、第8条において出品者及び「サクラ」の双方を規制する共に、違反した場合は最大200万人民元(約3,000万円)の過料、営業停止などの重い罰則を設けた(罰則は第20条に規定)。


第8条 事業者は、その商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザレビュー、受賞歴等について虚偽又は誤解を招く商業的宣伝を行って消費者を騙し、誤認をさせてはならない。
 事業者は、虚偽の取引を組織するなどの方法により、他の事業者が行う虚偽又は誤解を招く商業的宣伝を幇助してはならない。


4. 営業秘密侵害行為
 近年、合法的に営業秘密を取得した元職員が営業秘密を漏洩してしまうケースが多く発生している。このような状況に対応するため、元職員が営業秘密を侵害していることを知りながら、営業秘密を取得、開示、使用することも営業秘密の侵害とみなすこととした。実務上は、営業秘密の所有者が元職員の転職先に対して責任を追及することが予想されるが、「違法行為が行われていることを知っており又は知り得るべき」の立証の容易性が注目される。また、営業秘密の不正な取得手段として、「利益による誘惑」を「賄賂」に置き換えてより具体化するとともに、「詐欺」を追加した。さらに、行政部門の従業員が調査過程において知得した営業秘密について秘密保持義務を有することが明確に規定された(行政部門の従業員の秘密保持義務は第15条に規定)。


第9条 事業者は下記に掲げる営業秘密侵害行為を行ってはならない:
(一) 窃盗、賄賂、詐欺、脅迫又はその他の不正な手段により権利者の営業秘密を取得すること
(二) 前号の手段により取得した権利者の営業秘密を開示、使用し又は他人に使用を許諾すること
(三) 約定に違反し、又は権利者の営業秘密の保持に関する要求に違反して、その把握する営業秘密を開示、使用し又は他人に使用を許諾すること
第三者が、営業秘密の権利者の職員又は元職員又はその他の単位、個人が前項に掲げる違法行為を行なっていることを知っており又は知り得るべきにもかかわらず、依然として当該営業秘密を取得、開示、使用し又は他人に使用を許諾することは、営業秘密の侵害とみなす。
本法における営業秘密とは、公衆に知られていない、商業的価値を有し、且つ権利者が相当な秘密保持措置を講じた技術情報及び経営情報をいう。


5. 景品付販売行為
 現行法では、抽選式の景品付販売は5千人民元を超えてはならないこととなっていたが、上限が5万人民元まで引き上げられた。


第10条 事業者が行う景品付販売は、以下の場合があってはならない。
(一) 設定された景品の種類、景品引換の条件、賞金の金額若しくは賞品などの景品付販売情報が不明確であり、景品引換に影響を及ぼすとき
(二) 景品があることを偽り、又は意図的に内定者を当選させるなどの詐欺的な方法を用いて景品付販売を行うとき
(三) 抽選式の景品付販売において、最高賞の金額が5万元を超えるとき


6. 業務信用棄損行為
 現行法では、もっぱら「虚偽の事実」を捏造、散布する行為を規制していたが、近年は虚偽とまでは至らないが、消費者を惑わすような断片的な情報を散布して競争相手の信用の失墜を図る現象が蔓延している。そこで、改正法では、「虚偽の事実」を「虚偽の情報又は誤認を招く情報」に拡大した。また、現行法では、業務信用棄損行為については罰則が設けられていなかったところ、改正法では最大300万人民元(約5,000万円)の過料を設けた(罰則は第23条に規定)。


第11条 事業者は、虚偽の情報又は誤認を招く情報を捏造、散布し、競争相手の業務上の信用、商品の評判を損ねてはならない。


7. インターネット上の不正競争行為に関する特則
 オンラインサービスが普及してから、技術的な手段を用いて、不当にユーザの競争相手先へのアクセスを制限するなどの障害を設けること発生している。本部分の増設は改正法のハイライトであり、この規定に違反する場合は、最大で300万人民元(約5,000万円)の過料に処することができる(罰則は第24条に規定)。


第12条 事業者がネットワークを利用して生産事業活動に従事する場合は、本法の各項規定に従わなければならない。
 事業者が、技術的手段を用いてユーザの選択を影響し、又はその他の方法により、下記に掲げる他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又は役務の正常な運営を妨害し、破壊する行為を行ってはならない。
(一) 他の事業者の同意を得ずに、その合法的に提供するネットワーク商品又は役務において、リンクを挿入し、強制的にアクセス先をジャンプさせること
(二) ユーザを誤認、詐欺、脅迫して他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又は役務を修正、閉鎖、アンインストールさせること
(三) 悪意により他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又は役務に対して非交互とすること
(四) 他の事業者が合法的に提供するネットワーク商品又は役務の正常な運営を妨害、破壊するその他の行為


以上

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン