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2024.03.11

特許部 尾澤俊之

【2024年 米国トレーニー日記】米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷(en banc)での再審理傍聴

弊社では、2022年6月から、米国の特許事務所へのトレーニー派遣を再開しました。私(尾澤)は、2023年9月に派遣され、2024年3月までの半年間の予定でワシントンDCエリアに滞在しています。2024年2月5日に開催された米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷再審理(en banc rehearing)の口頭弁論を傍聴したので、本稿ではその様子を紹介します。

本事件は、LKQ CorporationがGM Global Technology Operations LLCの意匠特許(以下、「意匠」)の無効を求めた当事者系レビュー(IPR)のCAFC控訴審であり、大法廷再審理では、意匠に関する自明性(35USC103条)の判断基準が争われています。米国における意匠の自明性判断には、長らくRosen-Durlingテストが用いられていて、このテストでは、基本的に同じデザイン特徴を有する主引例の存在が必要とされています。IPRの特許庁判断、及びCAFCの審理では、LKQが主張する主引例が不十分であるとして、GMの意匠の自明性が否定されました。これを受けて、自明性判断を柔軟に行うことを可能にした2007年KSR最高裁判決が意匠にも適用されるべきであるとし、Rosen-Durlingテストの廃止又は変更を求めて、LKQが大法廷再審理を請求しました。事件の詳細については別記事(https://www.ngb.co.jp/resource/column/4880/)で紹介しています。

意匠に関して大法廷再審理が開かれるのは2008年のEgyptian Goddess事件以来であり、さらに自明性の判断基準という意匠制度の中核が審理の対象になるということで、注目を集めたと思います。実際、開廷の1時間前にCAFCに到着するも建物入口のセキュリティーゲートには列ができ、開廷時の傍聴人は100に迫る人数でした。ロースクールの学生や、審理中ひたすらメモを取り続けていた知財系ブロガーらしき人物も傍聴に来ていました。

写真: CAFCの建物外観

12名の現職裁判官のうち10名の裁判官の出席のもとで開廷。裁判官席の正面に証言台があるのですが、その距離が異様に近い印象を受けました。一段高い法壇に横一列に並んだ10名の裁判官から至近距離で凝視されるわけで、証言台で弁論する当事者の心中は察して余りあります。
口頭弁論は、LKQ、USPTO、GMの順に行われました。LKQの論調は、Rosen-DurlingテストはKSR最高裁判決によって暗に廃止され、意匠の自明性判断は広く柔軟に行われるべきである、というものでした。一方、GMの論調は、KSR最高裁判決は意匠には及ばず、現在のRosen-Durlingテストが維持されるべきである、というものでした。そして、USPTOのそれは、Rosen-Durlingテストを継続しつつ柔軟性を与えるという、LKQとGMの中間といった印象を受けました。
CAFCがLKQ、USPTO、GMに対して見解を求めていたRosen-Durlingテストに替わるテストに関して、3者から明確な回答はなかったと思います。ただ、USPTOは、Rosen-Durlingテストにおける自明性判断の出発点、すなわち主引例について、従来の”basically the same”(基本的に同じ)ではなく、“overall similar visual impression”(全体的に類似した視覚的印象)の表現を用いていました。このような変更によってRosen-Durlingテストに柔軟性を与えることをUSPTOは検討しているのではないかと予想されます。
意匠に関する自明性の判断基準が変わるのか、またどのように変わるのかについて、今後の審理の成り行きを注視して参ります。

最後に、CAFCのwebサイトで口頭弁論の録音が配信されています。こちらを紹介して本稿を終えます。
CAFC webサイト: https://cafc.uscourts.gov/home/oral-argument/listen-to-oral-arguments/
口頭弁論リンク: LKQ Corporation v. GM Global Technology Operations LLC (mp3)

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