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2004.08.23

【Cases & Trends】米国外での訴訟支援のためのディスカバリー手続き

米国での訴訟は巨額の費用がかかることで知られている。その理由は、弁護士費用が高いことに相まって広範なディスカバリー手続きが必要となるからだ。特許訴訟も例外ではない。企業同士の裁判となることが多いため、関連文書も知財部門だけでなく技術、営業、法務などの部門にまたがる。通常の訴訟と比べ、その規模は大きく、対象も広くなる。

米国のディスカバリー手続は米国内の訴訟に限定されるものではないのだが、このことは案外知られていない。根拠となる「合衆国コード」(28 USC 1782(a))の規定によって、利害関係者の要求にもとづき米国外の法廷や国際法廷での訴訟手続きに使用するための文書提出および証言を命じる権限が連邦地裁に認められている。

しかしながら、米国と同類のディスカバリー制度を持たない外国での裁判のためにディスカバリー手続きを認めるかどうかについては異論があり、控訴審レベルでも見解が統一していなかった。そのような背景もあって連邦最高裁は今年(2004年)6月21日、外国でのディカバリー手続きが認められるための4つのキーワードについてその定義および解釈を明確にする重要な判決をくだした。

この問題が争われたのは「Intel Corporation v. Advanced Micro Devices事件」の上告審(124 S.Ct.2466; 71 USPQ2d(BNA)1001)。この事件は、AMDがインテルを欧州競争法違反で訴えたことに端を発したもの。AMDは欧州委員会に対して、米国アラバマ連邦裁で行われた反トラスト法違反事件でインテルが提出した文書を委員会に再提出させるよう命令を出すべきだと要請した。しかし欧州委員会はこの要請を却下、そのためAMDはカルフォルニア北部地区地裁に文書提出命令を求めたもの。一審地裁はそのようなディカバリー命令を出す権限はないと判決したが、控訴審で地裁判決を破棄し、差戻した。裁判で争点となったのは

1)「外国でのディカバリー要件」(foreign discovery requirement)
2)「利害関係者」(any interested person)
3)「法廷」(tribunal)
4)「係属中」(pending)

の解釈であった。基本的にインテルは狭い解釈を主張し、AMDは広い解釈を主張した。

これらの争点について連邦最高裁は以下のように判断した。

1)「外国でのディスカバリー要件」は係争地である外国が米国と同様のディスカバリー制度をもつ場合に限定されない(つまり係争地がどこであろうと可能である)
2)「利害関係者」とは外国での訴訟手続きの当事者に限定されず、「あらゆる利害関係者」がディカバリーの請求権をもつ
3)「法廷」とは「第一審の決定機関」(first-instance decision maker)を包括的に意味するものであり行政審判や準司法手続機関も含まれる
4)外国での訴訟手続きが「係属中」である必要はなく、再審が合理的に予想される場合も含まれる―。

この判決にもとづき、米国企業が当事者となった審判や訴訟事件に関連して、事件が米国外の管轄地で係属していても、米国で当事者のディスカバリーが請求されことがあり得ることが確認された。この判例は、外国法域での裁判や審判の属地主義という原則を実質的に無力化しかねない影響力を秘めていると言うこともできよう。

(藤野仁三:現・東京理科大学大学院MIP教授)

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