IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2008.03.14

【Cases & Trends】米最新判例:雇用契約における従業員発明の取り扱い-明確な自動譲渡か、単なる譲渡義務規定か

今回は久々に米国最新判例をご紹介いたします。

ご紹介するのは、従業員発明の権利帰属をめぐる使用者と従業員発明者の争いを扱ったCAFC判決です(DDB Technologies, LLC v. MLB Advanced Media, LP, Fed.Cir. 2/13/2008)。契約社会といわれ、紛争を未然に防ぐべく詳細な契約を結んでいるはずのアメリカにおいて、この種の争いがいまなお頻繁に起こるのは不思議な感じがしますが、このような事例を見るとやはり契約文言選択・作成の大切さ、難しさを思い知らされます。

前号、前々号でご紹介した、米特許庁の規則改正案(継続・クレーム数制限規則案、IDS規則案)は、いずれもその後新たな動きが見られません。現在訴訟対象になっている継続・クレーム規則案(GSK, Tafas v. PTO)は、2月8日のヒアリング後いまだ判決が出ていないようです。また、今年1月もしくは2月始めには終局規則が出されるだろうと見られていたIDS規則案もいまだ告示されておりません。ある弁護士グループが行ったアンケートでは、IDS規則が告示されるのはGSK訴訟が決着してからという回答が75%、告示自体されないという回答が16%と出ております。いずれにせよ、まだなお時間がかかりそうです。そこで今回は久々に米国最新判例をご紹介いたします。

ご紹介するのは、従業員発明の権利帰属をめぐる使用者と従業員発明者の争いを扱ったCAFC判決です(DDB Technologies, LLC v. MLB Advanced Media, LP, Fed.Cir. 2/13/2008)。契約社会といわれ、紛争を未然に防ぐべく詳細な契約を結んでいるはずのアメリカにおいて、この種の争いがいまなお頻繁に起こるのは不思議な感じがしますが、このような事例を見るとやはり契約文言選択・作成の大切さ、難しさを思い知らされます。

[事実背景]

控訴人DDB Technologies, LLC(以下DDB)はデービッド・バーストウとその兄弟であるダニエル・バーストウによって設立された。バーストウ兄弟は、野球の試合などライブイベントのコンピュータ・シミュレーションをコンピュータ上に生じさせる方法に関する4件の特許の発明者である。1998年にバーストウ兄弟はこれらの特許をDDBに譲渡した。

デービッド・バーストウは1980年から1994年の間、Schlumberger Technology Corporation(以下STC)に雇われていた。雇われる際に、STCと交わした雇用契約には以下の条項が含まれていた。

「3. 従業者は、会社(STC)における雇用期間中に単独でもしくは共同で着想した、創作した、もしくは最初に開示したすべての技術的アイデア、発明および改良の完全な記録を、それが特許性を有するか否かにかかわらず、直ちに会社に提供するものとする。
4. 従業者は、本契約第3条の範囲に入る以下のアイデア、発明および改良に対する従業者のすべての権利、権原、利益 ? かかるアイデア、発明、改良に対する国内外の特許権を含む – を会社もしくは会社が指名する者に譲渡することに同意し、ここにおいて譲渡する:

  1. STCの業務になんからの形で関係するもの
  2. STCのために行われる従業者の作業によって示唆された、もしくはその結果生じたもの
  3. STCの関係会社の業務に何らかの形で関係するもの」

STCでの雇用期間中、バーストウは、油田用のセンサーを制御し、記録をとるソフトウェアの開発に関わる複数のプロジェクトに参加した。このときバーストウは、野球の試合などライブイベントのコンピュータ・シミュレーションをコンピュータ上に生じさせる方法に関する個人的プロジェクトにもとりかかっていた。この個人的プロジェクトの成果が、本件対象特許となっており、うち2件はSTC雇用中に出願され、1件はこの間に特許が認められている。

STCでの雇用中、バーストウは、自らの個人プロジェクトについてSTCの法務部長(チャールズ・ヒューストン)およびバーストウが所属した研究所の所長(レイド・スミス)に話している。ヒューストンとスミスは、バーストウが「ベースボール・シミュレーター」プロジェクトに取り組んでいたことを知っており、これについてバーストウと協議し、その際、同プロジェクトがSTCに属するものとは考えていなかったと証言している。さらにスミスは、バーストウのプロジェクトはSTCにおける「一般知識(general knowledge)」であり、バーストウが行っている個人的作業がSTCに属するものとバーストウに示唆したことはなかった、と証言している。……ただし、当該プロジェクトに対するヒューストンとスミスの知識がどの程度のものであったかは本件記録からは明らかでない。

2004年、DDBはMLB Advanced Media LP(以下MLB)に対し上記4件の特許侵害を理由に、テキサス西部地区連邦地裁に提訴した。提訴後MLBは、STCにコンタクトし、本件特許に対しSTCが有している(という)権利の譲渡を受ける契約を締結した。

MLBは、DDBが訴訟対象特許の全権利者(MLBを含む)を加えていないこと、また権利者であるMLBに対して侵害訴訟を提起できないことを理由に、訴え却下の申し立てを地裁に提出した。

2006年9月26日、地裁はMLBの訴え却下申し立てを認容。DDBはこれを不服として控訴した。
 
[判決要旨]

1. 自動的譲渡(automatic assignment)か、単なる譲渡の義務付けか

最初にDDBは、仮に本件特許が雇用契約の範囲に属するとしても、1) STCによる所有権主張は出訴期限法によって阻止される、2) STCは長期間にわたり所有権主張行為をなんらとらなかったため、権利を放棄したものとみなされる、等を主張した。……地裁は、STCとの雇用契約に基づく譲渡が自動的なものであったと認定し、その場合、テキサス州法では譲渡人が譲受人に対して放棄や禁反言と主張することが禁じられる、と判じている。

契約中の特許権譲渡が自動的なもの(譲受人としてはそれ以上なんらの行為をする必要もない)か、単なる譲渡の約束にすぎないかは契約の文言による。契約中で、将来の発明における権利譲渡を明示的に認めている場合、「発明が存在しさえすれば、それ以上の行為は必要とされない」(Film Tec, 939 F.2d 1573)。一方、将来の発明における権利譲渡を発明者に義務付けるにすぎない契約の場合、約束をされた側(使用者)は発明がなされた時点で、衡平法上の権利は認められるかもしれないが、その発明に基づく特許に対する法的権原を当然に使用者側に与えるものではない。

本件STCの雇用契約第4条では、バーストウが、契約範囲内に入る、将来の発明における「すべての権利を譲渡することに同意し、ここにおいて譲渡する(agrees to and does hereby grant and assign all rights)」ことが明示されている。この文言は、将来譲渡することの単なる同意ではなく、将来の発明における権利を明示的に譲渡したものといえる。したがって、当該特許が雇用契約の範囲に入りさえすれば、それは法の作用により自動的にSTCに譲渡されたものというべきであり、STC側にはそれ以上の行為をする必要はなかった、とする地裁の判断は正しい。

2. 契約中の譲渡対象範囲

そこで、当裁判所は、本件特許が、STCの「事業に何らかの形で関係している」もしくは「STCのために行われる(バーストウの)作業によって示唆された、もしくはその結果生じたもの」であるがゆえに、本件特許がSTCとの雇用契約の範囲に入るか否かを検討する必要がある。

・・・STCの契約は、何が「関係している」か、またSTCのためにバーストウが行った作業によって何が「示唆される」かについて明確に規定していない……。テキサス州契約法のもとでは、契約が曖昧な場合、(契約にこめた意図を示すであろう)契約当事者の行為…を検討することにより両当事者の意思を決定することができるとされている。

バーストウは、自らの個人的プロジェクトについてヒューストン、スミスと数回話し合いをしたが、STCの誰もDDBの特許技術がSTCに属するということはなかった、と証言している。さらにバーストウがSTCを去った1994年以降、MLBが権利譲渡についてSTCとの交渉を開始した2005年9月までの間にSTCが当該特許に対して所有権を有すると思っていたことを示すような行為をSTCが一切していないという。

しかしながら、当該契約は適用されないだろうというSTCの見解(およびその後の沈黙)は、STCがバーストウのプロジェクトについてはっきりと認識していた場合に初めて意味をもってくる。すなわち、ここでの重要な問題は、STCの役員たちが当該プロジェクトは契約の範囲外だと判断した時点において、彼らがどの程度当該プロジェクトの内容を知っていたかということだ。ここで問題は、この中心的争点に関わってくるディスバリ要求をDDBが認められなかったということだ……。

したがって、当該特許が雇用契約の範囲に入るか否かという争点に関連する合理的なディスかバリをDDBに認めるべく、本件を地裁に差し戻す。

(渉外部・飯野)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン