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2008.08.20

特許/Claim Preclusion/『本質的に同一のテスト』による後続訴訟排除の認定

■特許/Claim Preclusion/本質的に同一のテストによる後続訴訟排除の認定
 claim preclusionの法理に基づき、先の訴訟における本案判決が第二の訴訟を妨げる場合とは、同一の当事者か、またはその利害関係人が同一の訴訟原因に基づいて関与する場合である。その適用要件に関して、巡回区先例は、(1) 同一当事者またはその利害関係人が先の訴訟に関与していた場合、(2) 先の訴訟が後の訴訟と同一請求または訴訟原因に関与する場合、(3) 先の訴訟が本案に関する終局判決によって終結する場合を挙げている。特許侵害請求に関して、claim preclusionを主張する当事者は、被疑装置が本質的に同一であることを証明する責任を有する。
 争点が、上記第2の要件である同一請求の要件であって、特許侵害請求に関して生じている事件において、請求がclaim preclusionによって妨げられる唯一の場合は、その請求が先の訴訟と本質的に同一の取引上の事実から生じている場合である。本質的な取引上の事実が、「争点の装置またはその製品群の構造」である以上、特許侵害に関する二つの請求の被疑装置が「本質的に同一」でない限り、同一の取引上の事実から生じていないことになる。「本質的に同一」でないと認められる場合には、claim preclusionの法理に基づいて、後続訴訟が妨げられることを証明しているとは認められない。
(Acumed LLC v. Stryker Corporation, et al., CAFC, 5/13/08)

事実概要
 2004年4月、Acumed LLC(以下、Acumed)は、Stryker Corporation、Stryker Sales Corporation、Stryker Orthopaedics、Howmedica Osteonics Corporation(以下、総称して、Stryker)に対して、米国特許第5,472,444号(以下、’444特許)に関する侵害訴訟を提起した。’444特許は、骨髄内くぎに関し、上腕骨近位端皮質の骨折修復に関する。Strykerの本件被疑製品であるT2 Proximal Humeral Nail(以下、T2 PHN)は、両当事者の先に終局判決によって解決した侵害訴訟(Acumed LLC v. Stryker Corp.事件(No. 04-CV-513 (D. Or. April 21, 2006))、以下、Acumed I)に関するものであって、上腕骨近位端骨折を治療するのに用いられる。
 Acumed Iに関する情報開示手続において、Acumedは、Strykerが、「T2 Long」と呼ばれるT2 PHNの長めの製品を開発していたことを知った。また、Acumedは、T2 Longの製造図面、開発書類、その他の情報を入手した。しかしながら、Strykerは、T2 Longの米国内上市に関して、情報開示手続の間は行わず、たぶんこの理由によって、Acumedは、Acumed Iに関するその訴状にT2 Longに関する侵害請求を追加する補正を行なわなかった。
 2005年4月、Acumed Iの事実に関する情報開示手続が終了した約4ヶ月後、Strykerは、T2 Longに関して、米国内において公に市場での販売を開始した。しかしながら、Acumedは、T2 Longに関して、米国内における商業的な状況について、2005年7月まで問合せを行なわなかった。Acumedからの照会を受けた後、Strykerは、Acumedに対して、T2 LongはT2 PHNに関する侵害の一部であるとは思わなかったとし、T2 Longの商業的な状況について実質的に答えることを拒否していた。尚、後の控訴において、Strykerは、当初、T2 LongがAcumed Iの一部であると思わなかったのは、AcumedがT2 Longを根拠とする侵害を正式に申し立てていなかったからであると明示している。Strykerから回答を得ることなく、Acumedは、T2 Long見本の製造とT2 Longに関する販売資料の開示を行うよう要請する申立てを行なった。その要請に関する申立てにおいて、Acumedは、以下のように説明した。
    「もし、長い方の製品(T2 Long)が、通常のくぎ(T2 PHN)と長さ以外で実質的に類似するならば、当事者間に存在する侵害主張は、そのくぎを十分に含むことになる。もし、そうでないならば、くぎは、実質的に異なり、Acumedは、第二の訴訟が適切であるかについて、後日、決定する。」
 地裁の要請によって、Strykerは、求められたT2 Longの見本と販売資料を提示した。見本を調査した後、Acumedは、地裁に対して、T2 LongはT2 PHNと「実質的に類似する」とし、T2 Longも’444特許を侵害しうるであろうと論じた。地裁は、Acumedに対して、T2 Longを根拠とする侵害の請求を追加することを認め、しかしながら、T2 Longを追加することは、事実審を延期する必要があるので一年後になるであろうと注意を促した。この遅れを避けたいがために、Acumedは、そのT2 Longに関する侵害主張を延期することを決定し、両当事者は、T2 PHNの侵害請求だけについての事実審を進めた。事実審は、陪審評決によって、T2 PHNによる’444特許侵害とStrykerの侵害が故意であるとする判断を下した。地裁は、2006年4月26日、Acumed Iの終局判決を登録した。侵害と故意の判決は、連邦巡回区控訴裁判所によって確認された。Acumed LLC v. Stryker Corp.事件(483 F.3d 800 (Fed. Cir. 2007))参照。
 2006年5月3日、Acumedは、本件に関する訴状を控訴において提出して、StrykerのT2 Longのくぎに関する’444特許侵害を主張した。Acumed LLC v. Stryker Corp.事件(No. 06-CV-642, 2006 WL 3253115 (D. Or. Nov. 6, 2006))(以下、Acumed II)参照。地裁は、連邦民事訴訟規則第12条(b)(6)に基づき、Acumedの訴えを斥け、その根拠に関して、AcumedによるT2 Long侵害請求は、Acumed IにおけるT2 PHNに関する侵害判決によって妨げられるとした。
Acumedは、その却下に控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)、に基づき、裁判管轄権を有する。

破棄、差戻し

判旨
 「claim preclusion(請求排除効)」の法理に基づき、先の訴訟における本案判決が第二の訴訟を妨げる場合とは、同一の当事者か、またはその利害関係人が同一の訴訟原因に基づいて関与する場合である。Parklane Hosiery Co. v. Shore事件(439 U.S. 322, 327 n.5(1979))参照。

***中略***
 
 尚、正確を期すために、裁判所は、しばしば、「claim preclusion」の用語を使用して、より包括的な用語である「res judicata(既判力)」の代わりとしている。Migra v. Warren City School Dist. Bd. of Educ.事件(465 U.S. 75, 77 n.1 (1984))、Foster v. Hallco Mfg. Co., Inc.事件(947 F.2d 469, 478 (Fed. Cir. 1991))(以下、Foster事件)参照。res judicataの用語は、主として、claim preclusionの概念を意味するために、かつて使用されていたが、res judicataの用語の使用は、「collateral estoppel(副次的禁反言)を含む判決から生じるいかなる訴訟排除も」含むようになってきた。Foster事件(947 F.2d at 478)参照。ゆえに、res judicataとcollateral estoppelとの分析的な区別を維持するために、裁判所は、しばしば、「claim preclusion」と「issue preclusion(争点効)」の用語を代用する。『Restatement (Second) of Judgments(Introductory Note before ch. 3 (1982))(リステイトメント:米国法律協会American Law Institute編、判例学説規則集成)』、『18 Charles Alan Wright, Arthur R. Miller & Edward H. Cooper, Federal Practice and Procedure(§ 4402 (2d ed. 2002) )』参照。さらに、「claim」の用語が、特許法において特別な意味があるので、当裁判所が「claim」の用語を使用してclaim preclusionの議論をする際には、訴訟原因を意味するのであって、特許クレームではないことに付言しておく。

***中略***

 事件がclaim preclusionの一般原則に依存する限りにおいて、特許事件に特有な適用がある法原則に反するならば、当裁判所は、地区巡回区の法を適用することにして、本件では、地裁が属する第9巡回区とする。Media Tech. Licensing, LLC v. Upper Deck Co.事件(334 F.3d 1366, 1369 (Fed. Cir. 2003))参照。第9巡回区がclaim preclusionを適用するのは以下の場合である。(1) 同一当事者またはその利害関係人が先の訴訟に関与していた場合、(2) 先の訴訟が後の訴訟と同一請求または訴訟原因に関与する場合、(3) 先の訴訟が本案に関する終局判決によって終結する場合である。Cent. Delta Water Agency v. United States事件(306 F.3d 938, 952 (9th Cir. 2002))、Blonder-Tongue Labs. v. Univ. of Ill. Found.事件(402 U.S. 313, 323-24 (1971))参照。本件においては、第二の要件のみが、すなわち、同一請求の要件が争点である。
 特許侵害に係る二つのクレームが同一であるか否かは、「特許法に特有」のclaim preclusionの問題であって、ゆえに、当裁判所は、連邦巡回区の法を分析する。Hallco Mfg. Co. v. Foster事件(256 F.3d 1290, 1294 (Fed. Cir. 2001))(以下、Hallco事件)、Foster事件(947 F.2d 478-80))参照。claim preclusionの法理を適用する際、当裁判所は、『Restatement (Second) of Judgments』を参照する。Foster事件(947 F.2d 477 n.7, 478-79)参照(同事件において、裁判所は、第9巡回区が、claim preclusionに関して、Restatementの指針に従うことに留意した。さらに、裁判所は、claim preclusionの法に関して、第9巡回区と連邦巡回区との間に「重要な相違はない」ことを認めた)。Restatementによるclaim preclusionに対する方式に基づき、ある請求の定義は、その生ずる取引上の事実によってなされる。Restatementには、以下のように説明される。

***中略***

 検討したように、特許侵害に関する請求が、claim preclusionによって妨げられる唯一の場合は、その請求が先の訴訟と同一の取引上の事実から生じている場合である。Young Eng’rs事件(721 F.2d 1314)、Foster事件(947 F.2d 478-79)参照。さらに、本質的な取引上のある事実とは、特許侵害請求に生じている場合には、「争点の装置またはその製品群の構造」である。Foster事件(947 F.2d 479)参照。ゆえに、特許侵害に関する二つの請求は、各請求の被疑装置が「本質的に同一」でない限り、同一の取引上の事実から生じない。claim preclusionの対象としての特許侵害請求の範囲に関するこの理解をもって、当裁判所は、目前の事件にclaim preclusionの適用を考慮する。被告(被控訴人)であるStrykerは、Acumedの侵害請求が、本案の終局判決、すなわち、Acumed I判決によって解決された当事者間の先の訴訟によって妨げられると主張する。しかしながら、Strykerがその準備書面において当裁判所に主張していることは、本件の被疑装置(T2 Long)が、Acumed Iの被疑装置(T2 PHN)とは、本質的に同一ではないとしている。特に、Strykerは、T2 LongとT2 PHNが、’444特許の限定事項に関連する相違点を有すると主張した。

***中略***

 Strykerが、T2 LongとT2 PHNの被疑装置は、Foster事件テストに基づいて、「本質的に同一」ではないと主張しているので、Acumed Iの侵害請求が、現在の訴訟に関する侵害請求と同一であることを証明する自らの責任を果たしていない。したがって、Strykerは、Acumed Iがclaim preclusionの法理に基づき、本件訴訟を妨げることを証明していないことになる。

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