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2008.09.20

特許/第41条(c)/維持年金納付遅滞原因の不可避性判断

特許/第41条(c)/維持年金納付遅滞原因の不可避性判断
 裁判所が、行政庁の行為、認定、決定を違法であると判断して無効にするには、かかる行政行為が、恣意的で不合理であり、裁量権の濫用によっており、もしくは法に従っていないと認められることを要する。裁量権の濫用による場合とは、かかる決定が法の誤った解釈に基づいているか、実質的な証拠に基づいていない事実認定によるか、または、関連要因の衡量によって不合理な判断がなされていると見做される場合である。
 特許維持年金未納による失効した特許権の回復請求に関して、記録上、法律上の特許権者が要求される維持年金納付に合理的な注意を払うことを怠っており、当該特許の買戻し請求権を行使して衡平法上の権原を有すると主張する者が、特許発行日とその失効を発見した日の期間である11年間に特許の現状を照会しておらず、また照会しえなかったことを示す証拠がない以上、納付遅滞の不可避性を証明していることにはならず、不可避性に関する基準を充たすのに十分な注意を払っていないと認められる場合であるので、回復請求を拒絶した行政行為は、恣意的でも不合理でもなく、裁量権の濫用は認められない。
(Corliss O. Burandt v. Jon W. Dudas, Director, USPTO, CAFC, 6/10/08)

事実概要
 1980年、Corliss O. Burandt(以下、Burandt)は、Investment Rarities, Inc.(以下、IRI)のために内燃機関を設計した。翌年、Burandtは、IRIと譲渡契約(以下、「the 1981 Agreement」)を締結した。その契約の規定によると、IRIは、Burandtの研究活動に資金を提供し、見返りとして、その研究成果であるいかなる特許出願または特許も、IRIの財産になるとしている。補償として、Burandtは、当該特許から生ずる利益のある割合を受け取る権利を有する。また、Burandtは、IRIが Burandtの研究に資金供与を止める場合には、IRIから特許を買い戻す権利を有するとしている。その選択権を行使するために、Burandtは、書面による通知と弁済の提供、または、選択的にIRIの将来の収入に対するリーエン(担保権)の提供を要するとされた。
 1988年4月7日、Burandtは特許出願を行ない、1990年10月9日、米国特許第4,961,406号(以下、’406特許)として発行された。Burandtは、’406特許の記名された発明者であり、IRIは、譲受人である。’406特許が対象とするのは、「多様なエンジンの速度に対してエンジン性能を最適化するための混合気燃焼率に関連付けたバルブサイズとタイミングの可変方法および装置」である。契約に従い、IRIは、’406特許に関して、その発行時点で法律上の権原を有する所有者となった。しかしながら、Burandtは、特許発行前の1989年3月30日において、買戻し権を行使しよう試みたが、その請求によると、その時点で本件特許に対する衡平法上の権原を獲得したとしている。
 IRIは、法律上の権原を有する所有者として、特許権の存続期間中、三回の維持年金を納付する必要があった。すなわち、発行日から3年半、7年半、11年半の時点である。特許法第41条(b)参照。最初の維持年金は、1994年4月9日が納付期限であって、維持年金を規定する法令の規則によると、年金は、その期日から6ヶ月以内であれば、延長費用なしに追納することができる。IRIは、最初の維持年金に関して、6ヶ月の猶予期間内の納付を怠ったため、しかるべく特許は、1994年10月9日に失効した。
 Burandtによると、自身は、1992年より前のある期間、精神的な障害を抱えていた。Burandtは、その精神科医として1992年より継続してBurandtを担当しているDr.Warnerによる宣言書を提出した。Dr.Warnerの所見によると、その診察開始以前から、Burandtは、不安障害に悩み仕事に支障をきたすほどであった。Burandtは失業していたので、1991年に生活保護を受け始めていた。
 Burandtが’406特許の失効について知るところとなったのは、2001年12月であって、失効後7年経っており、Hondaによる多くのバルブエンジン導入の論文を読んだ後に、自らの特許に関して、PTO(特許商標局)に照会したときのことであった。Burandtは、その時より前には、’406特許について照会したことがないことを認めている。失効について知った後、Burandtは、その特許を回復するために、経済的な、また法律上の支援を求めて、弁護士、報道、政治家、自動車製造者に働きかけた。同氏が求めていた法律上の権原をIRIから実際に取り戻したのは、2002年5月21日であって、特許が放置されて暫くしてからのことである。
 2005年10月13日、Burandtは、その代理人であるGeorge Macdonaldを通じて、維持年金の納付遅滞は避けられなかったと主張して、37 C.F.R. § 1.378(b)に基づき、遅滞した維持年金の納付を受理するようPTOに請願を提出した。Burandtの論じるところによると、Burandtは、IRIの行為、すなわち、その維持年金未納に覊束されるべきものではなく、同氏は、当該特許に衡平法上の権原を有していたが、正当に維持年金納付ができなかったとした。Burandtは、維持年金納付の遅滞が避けられなかったかを決定するその不作為の理由を考慮するようPTOに強く求めた。PTOは、2005年10月31日に請願を拒絶した。Burandtは、この決定の再考に関する請願を行なったが2006年2月1日に拒絶された。その後、Burandtは、再度、再考を求める請願を提出したが、2006年5月26日付けの最終行政処分において拒絶された。Burandtは、さらに、37 C.F.R. § 1.183に基づき四度目の請願(Rule 183の請願)を行ない、37 C.F.R. § 1.378(b)による規則の執行停止を求めたが、PTOは2006年5月26日付けの決定において拒絶した。
 Burandtは、行政手続法(APA)に基づき、バージニア東部地区において、長官(PTO長官)に対する訴訟を提起して、執行停止請求の長官による拒絶は、恣意的であり不合理であり、裁量権の濫用であると主張した。両当事者は、略式判決を求める申立てを行なった。2007年7月12日、地裁は、長官側に有利な略式判決を認めた。Burandt v. Dudas事件(496 F. Supp. 2d 643 (E.D. Va. 2007))参照。その判断に至るにあたって、裁判所は、Ray v. Lehman事件(55 F.3d 606 (Fed. Cir. 1995))における当裁判所判断に留意し、納付遅滞が止むをえないかどうかを決定するために、維持年金納付の義務を負う者の行為に着目しなければならないとした。裁判所は、IRIが本件において納付の義務を有する者であるとし、Burandtは、IRIが維持年金納付に相当の注意を払ったことを示す証拠を提示していないと判断した。これとは対照的に、記録が示すところでは、IRIは、Burandt特許の他の三件を満了前に失効させたように、’406特許をも意図的に失効させている。また、裁判所は、Burandtの行為が、推定される衡平法上の特許所有者として、遅滞の不可避性に関する分析によって考慮されるべきであるとするBurandtの主張を斥けた。しかしながら、裁判所の認定によると、Burandtの行為が考慮されたとしても、Burandtは、維持年金納付に対する合理的な注意義務を怠っており、ゆえに、同様の結論が導き出されたであろうと認定した。裁判所は、長官の主張を認める終局判決を登録した。
 Burandtは、適時、裁判所判断に控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づき裁判管轄権を有する。

(以下、省略)

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