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2010.03.15

■特許/28U.S.C.§1404(a)/便宜性の要因認定による裁判地移送の請願認容判断

(In re Hoffmann-La Roche Inc., et al., CAFC, 12/2/09)

 移送の拒絶を争うには、職務執行命令の請願を提出することにより可能となるが、請願人は、「明らかな議論の余地のない」救済を受ける権利を証明する必要がある。職務執行命令が発せられうる唯一の場合とは、地裁が、不適切な裁判地に関する公共と個人の要因を適用する際に根拠とする事実と事情が、地裁判断を合理的に支持せず、地裁が、「特許法上、誤りのある」結果に到達しているか、裁量権の「明らかな」濫用を行なっていることが証明される場合である。「個人の」利益の要因に含まれるものは、(1) 証拠源へのアクセスが比較的に容易であること、(2) 証人出頭を確実にする強制的な手続が可能であること、(3) 自発的な証人出頭の費用、および(4) 事実審を容易、迅速、経済的にするその他のあらゆる実務上の問題点が挙げられる。
 連邦最高裁判所判決の説示によると、第1404条(a)は、「裁判地の変更に異議を唱える当事者の意図的な作為または不作為がなければ、適正で便宜的で正義に適うことになる移送に対して、その当事者が無効にしようとすることを禁じているものと解釈されるべきである」としている。
 被疑の薬品は、ノースカロライナ東部地区で研究開発・試験されており、書類および証拠源はその地に残っており、当該地区に関する地方特有の利益は、優勢なままになっている。訴因が問題にしているのは、同地区内またはその付近に居住している複数の個人の業績と名声であり、推定されるところでは、その地域社会において業務に従事した者だからである。18人の非当事者証人中、少なくとも、4人の非当事者証人は、ノースカロライナ東部地区から100マイル以内の所に居住しており、事件がこの地区に移送されれば、これらすべての者に、証言録取と事実審の証言の双方を求めることができ、この地区が比較的滞貨の少ない裁判係属からすると、より速やかに本件の紛争を解決することができそうである。
 一方、本件とテキサス東部地区は、本件訴訟提起を見越したことによる以外に、連結点は何もないように見られ、カリフォルニア所在の原告代理人は、発明の着想と実施化を証明する75,000頁におよぶ書類を電子化した上でテキサス所在の訴訟代理人事務所に移管しており、本件訴訟提起がなければ、その書類は、カリフォルニアに証拠源を留めたであろうから、これらの書類が「テキサス」の書類であるという主張は、フィクションであって、裁判地の正当性を操作するために創られたもののように思われるから、その企ては、裁判地を操作するための禁じられた活動に全面的に相当する。反対の立場は、法律上、合理的な基礎を有するものではなく、第1404条(a)が実施を目的とするところの訴訟当事者、証人、および公衆に対して無用な不都合と支出から保護することを妨げるものである。
 テキサス東部地区は、同地区付近に居住する唯一の非当事者証人に対する召喚令状を発する絶対的な権限を有するものではなく、事実審と証言録取の双方に出頭するよう求める召喚令状を発する権限ももたないが、ノースカロライナ東部地区は、少なくとも4人の非当事者証人に対して召喚令状を発する絶対的な権限を有する以上、地裁は、この要因に関して、移送を支持するよう考慮すべきである。
 全国規模で引合いがある被疑製品の販売は、いかなる単一の裁判地でも実体的な利益を生じることはないが、特定の裁判地と訴訟を提起させた事情の間に重要な連結点が存在する場合には、この要因は、かかる裁判地を支持するのに衡量されるべきであって、ノースカロライナ東部地区が有する本件に対する利益は自明の理であり、一方、テキサス東部地区と関連のある事実の連結点は何もない。ゆえに、この要因は、移送を支持する。

事実概要
 Duke Medical Centerの研究者は、HIV阻害薬であるFuzeon®の36アミノ酸ペプチド組成を特定して、1993年には、その研究者たちがTrimeris, Inc.(以下、Trimeris)を創って、そのペプチドをHIV感染に有効な治療用として研究開発した。Fuzeonは、ノースカロライナ州MorrisvilleにあるTrimerisの研究所で開発され試験され、関連の書籍と書類は、現在、ここで保存されている。
 Trimerisは、Rocheと提携して、Fuzeonの合成物を製造販売することにした。Fuzeonの医薬品有効成分は、Rocheのコロラド工場で製造されており、さらに、ミシガン州またはスイスのHoffmann-La Roche Inc.(以下、Hoffmann-La Roche)によって加工されている。この薬品は、ニュージャージー州のHoffmann-La Rocheによって包装されて、Hoffmann-La Rocheが完全所有子会社にしているRoche Laboratories, Inc.によって、全国的に販売されている。
 Novartis Vaccines and Diagnostics, Inc.(以下、Novartis)は、カリフォルニア州に本拠を置く法人であるが、テキサス東部地区において、その特許をFuzeonが侵害していると主張して、Fuzeonの上記製造者各社に対する本件訴訟を提起した。各当事者が期待できる証人を特定して最初の証拠開示手続を行なった後、被告は、テキサス東部地区から100マイル以内には、証人も証拠源も存在しないと主張して、訴訟をノースカロライナ東部地区に移送するよう申し立てた。さらに、主張するところによると、重要な証拠の一件書類はノースカロライナ東部地区に存在し、ノースカロライナ東部地区での事実審は、Trimerisの従業者と従業者以外の4人の証人にとって都合がよく、同地区から100マイル以内に居住し、テキサス東部地区に出頭するのは、証人全員が不都合であり無理があるとした。
 Novartisは、この申立てに異議を唱えて、テキサス東部地区は適切な裁判地であるとし、各当事者、証拠源、および証人は、国内に散在しているからであるとした。最初の証拠開示と申立ての書面において、各当事者は、18人の期待できる非当事者の証人を指定しており、4人はノースカロライナ、5人はカリフォルニア、3人はメリーランド、1人はミズーリ、2人はアラバマ、2人はヨーロッパ、さらに1人は、テキサスヒューストンからのDr. Nancy Changとした。また、当事者は、7人の当事者証人を指定しており、3人がノースカロライナ、3人がニュージャージー、さらに1人がコロラドである。また、Novartisは、テキサス東部地区が至当であるのは、特許に関する75,000頁の書類がテキサス東部地区に存在するからであると主張した。
 テキサス東部地区地方裁判所は、移送請願人の申立てを拒絶した。地裁の説示によると、本件は、期待できる証人の所在地が多様な「非集中型の」事件であって、さらに、移送は、ノースカロライナ付近の証人からテキサス東部地区付近の証人へ、すなわち、カリフォルニア、ミズーリ、コロラド、およびテキサスの証人へと、単に不都合さを転換するだけになるであろうとした。さらに、地裁の説示によると、移送が不必要な理由は、4人の非当事者証人だけが移送先の裁判地またはその付近に居住しているからであり、地裁は、相当数の証人を把握していないとした。証人の出頭を確実にする権限に関して、地裁は、移送が好ましくはない理由として、テキサスに居住するDr. Changを事実審に出頭させる召喚令状を発することができるからであるとした。次に、証拠源の要因に関して、裁判所の認定は、移送が好ましくない理由について、証拠源が国内中に拡散しているところ、Novartisが75,000頁におよぶ書類を電子形式にしたものを当該地区に転送したからであるとした。最後に、地裁は、いずれの裁判地も本件に関する属地性の利益を有する所はないと説示した。
 Hoffmann-La Roche、Roche、Roche Colorado、およびTrimerisは、裁判所および裁判手続に関する法律第1404条(a)に基づく裁判地移送の申立てを拒絶した地裁命令を取り消すよう求めて、職務執行令状を発するよう求める請願を行なった。

職務執行令状を求める請願の認容

以下、I.P.R.誌第24巻2号参照

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