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2011.01.15

■特許/第101条/治療方法のプロセスクレームにおける「変化」の認定基準

(Prometheus Laboratories, Inc. v. Mayo Collaborative Services, Inc., et al., CAFC, 9/16/10)

 基本的な原理・原則を対象とするクレーム、自然法則、自然現象または抽象的概念などを対象とするクレームは、特許の対象にはなりえないが、既知の構造またはプロセスに自然法則または数式を応用することであれば、特許保護を受けるに足るという解釈は確立されている。プロセスが第101条に基づき特許の対象となりうるか否かを判断するための明確なテストによると、クレームに記載されているプロセスは、(1)特定の機械または装置と結びついているか、または(2)特定の対象物を異なる状態もしくは物に変化させるものであれば、第101条に基づき確実に特許の対象となりうるのであって、「機械または変化(machine-or-transformation)」テストは二分岐の審理であり、特許権者は、プロセスクレームが第101条を満たすことに関して、クレームが特定の機械と結びついたものであるか、ある物を変化させるものであるか、そのいずれかを示すことにより証明できる。具体的な機械の使用または物の変化は、特許の対象となりえるために、クレーム範囲に意味のある限定を付すものでなければならず、請求されたプロセスに対する機械または変化の関与は、単に、重要でない課題解決外活動(extra-solution activity)であってはならず、この変化は、請求されたプロセス目的の中心となるものでなければならない。
 本件争点特許クレームの治療方法は、特定の対象物を異なる状態もしくは物に変化させる。この変化が請求されたプロセス目的の中心である以上、特許対象となりうる発明主題の範囲内にある。この変化は、薬剤の投与に続く人体の変化であり、薬剤の濃度の測定を可能にする薬物代謝物質の化学的および物理的変化である。特許請求された方法はBilski事件における変化の基準を満たすので、同方法と機械の基準に関する検討は必要ない。
 本件クレームは、治療方法を請求対象としており、好ましくない状態の効果を改善する目的で一定の薬品群が生体に投与されるときに常に変化をともなう。具体的には、患者に薬剤を投与することにより、6-TGを提供する薬剤を利用する胃腸系および非胃腸系の自己免疫疾患の治療計画において、その効果を最大限にし、毒性を低減させるための方法を請求対象とする。AZAまたは6-MPなどの薬剤を投与する場合、人体は必ず何らかの変化を受けることになり、薬剤は、人体に一切の影響を与えることなく人体に非接触のまま人体を通り抜けることはない。そこで生じる変化、人為的に投与された薬剤を代謝した後の人体への効果は、当該薬剤の投与目的のすべてであり、薬剤は、同薬剤の疾患治療における活性代謝物質と考えられる6-TGを患者に提供するために投与される。投与された薬剤のその代謝物質への変化が自然のプロセスに依存しているという事実により投与ステップが特許性の範囲から除外されるものではない。物理的なものにおけるあらゆる変化は、自然のプロセスおよび自然法則に従い生じていると記載することが可能である。変化は自然原則により作用する。本件における変化は、患者を変化させ、治療するための患者に対する薬剤の投与という物理的な行為の結果であり、その行為そのものは自然のプロセスではない。物理的物体または物質を化学的または物理的に変化させる方法が特許対象となりうる発明主題であることは、実質的には自明のことである。よって、投与ステップは単なるデータ収集ではなく、請求対象とする治療方法において変化をもたらす重要な要素であり、特許による独占権を十分明確に限定する。測定ステップは、投与ステップ同様、特許請求された治療方法の重要な一部分であり、6-TGまたは6-MMPのレベルを測定することは、治療中の効果を最適化し、毒性を低減させるために、チオプリン系薬剤投与量の調整可能性を発見することを可能にし、測定ステップは、物理的物質上の化学的および物理的変化を生じさせることにより、Bilski事件で求められる通り、同様に特許の独占権を十分に限定する。

事実概要
 Prometheus Laboratories, Inc.(以下、Prometheus)は、米国特許第6,355,623号(以下、’623特許)と同第6,680,302号(以下、’302特許)の唯一の専用実施権者である。当該特許は、胃腸系および非胃腸系自己免疫疾患の治療に使用されるチオプリン系薬剤の適切な投薬量を測定する方法を請求対象としている。これらの薬剤とは、クローン病や潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患(以下、「IBD」)を治療するために用いられる6-メルカプトプリン(以下、「6-MP」)と患者への投与によって生体内で6-MPに変換するプロドラッグであるアザチオプリン(以下、「AZA」)を意味する。6-MPは、生体で6-メチル-メルカプトプリン(以下、「6-MMP」)や6-チオグアニン(以下、「6-TG」)とそれらのヌクレオチド(本判決において、6-TGは6-チオグアニンヌクレオチドを包含する)を含むいろいろな6-MP代謝物質に分解される。本件特許は、これらの2つの代謝物質の測定に関するものである。6-TGを放出する薬剤は、細胞障害作用や免疫抑制作用の特性を有する薬剤として広く使用される。
 6-MPやAZAのような薬剤は、長い間自己免疫疾患の治療に使用されてきたが、一部の患者において非反応性と薬物毒性が治療を困難にすることがある。そのために、当該特許は、中毒性副作用を最小限にしながら治療効果を最適化しようとする方法を請求対象としている。明細書に記載されているように、当該方法は主として2つの別々のステップからなるものである:(a)6-TGを提供する薬剤を患者に「投与する」ステップおよび(b)患者の薬物代謝物質、6-TG及び/又は6-MMP、のレベルを「測定する」ステップ。’623特許クレーム1参照。次に、測定された代謝物質レベルは、前もって測定された代謝物質レベルと比較される。その測定された代謝物質レベルは、毒性を最小限度にとどめ、そして治療効果を最大限に活用するように投与される薬剤のレベルを増減する「必要性を示している」。同上。特に、当該特許によれば、8億の赤血球細胞に対して約400ピコモル(「pmol」)を超える6-TGレベルまたは8億の赤血球細胞に対して約7000ピコモルを超える6-MMPレベルの場合は、中毒性副作用を避けるために薬剤投薬量の下方調整の必要があることを示している。同col.20 ll.22,54参照。逆に、当該特許によると、8億の赤血球に対して約230pmol未満の6-TGレベルは治療効果を確実にするために投与量を増やす必要があることを示している。同col.20 ll.18-19参照
 ’623特許のクレーム1は、本件におけるPrometheusによって主張された独立クレームの代表的なものである:
以下のステップからなる免疫介在性胃腸疾患の治療効果を最適化する方法。
(a)当該免疫介在性胃腸疾患を持つ患者に6-チオグアニンを提供する薬剤を投与し;そして
(b)当該免疫介在性胃腸疾患を持つ患者の6-チオグアニンのレベルを測定する。
ただし、8×108の赤血球細胞に対する6-チオグアニンのレベルが約230pmol未満の場合は、免疫介在性胃腸疾患を持つ患者に投与する当該薬剤の量を増加させる必要性を示す;そして
8×108の赤血球細胞に対する6-チオグアニンのレベルが約400pmol以上の場合は、免疫介在性胃腸障害を持つ患者に投与する当該薬剤の量を減少させる必要性を示す。
’302特許のクレーム1は、6-TGに加えて6-MMPレベルの測定を含めが実質的に同じである。
 Prometheusは、当該係争対象特許によってカバーされる技術を使用したPrometheusのチオプリン代謝物質テスト(以前は、PRO-PredictRx 代謝物質テストとして知られる)を市場に出した。Mayo Collaborative ServicesとMayo Clinic Rochester(以下、総称して、Mayo)は、以前、Prometheusの代謝物質テストを購入し、使用した。しかし、Mayoは、その所有するテストを彼らのクリニック内で使用し、他の病院にも販売し始めるつもりであると2004年に発表した。MayoのテストはPrometheusのテストと同じ代謝物質を測定するものであるが、Mayoのテストは6-TGと6-MMPの毒性を測定するために異なるレベルを使用。
 2004年6月15日に、Prometheusは、Mayoを特許侵害で告訴した。Prometheusは、’623特許の独立クレーム1、7、22、25と46、および’302特許の独立クレーム1の権利を主張した。これらのクレームのほとんどは、免疫介在性胃腸疾患の治療においてAZAや6-MPのような薬物を接種している患者に対する「治療効果を最適化し」及び/又は「毒性を低減させる方法」を特許対象とするものである。’623特許の独立クレーム1、7、22、25と46、および’302特許の独立クレーム1参照。そのうちの1つの独立クレームは、非IBD自己免疫疾患の治療に関するものであった。’623特許のクレーム22を参照。また、Prometheusは、代謝物質の測定が高圧液体クロマトグラフィを使用して行われる場合(’623特許のクレーム6、14、24、30および53を参照)または使用されるチオプリン系薬剤が4つの具体的な薬物の一つである場合(’623特許のクレーム32、33、35および36を参照)のどちらかを特許対象とするいくつかの従属クレームを主張した。Mayoは、訴訟が提起された直後すぐにその発表を撤回し、そして、まだそのテストを開始していなかった。
 2005年11月22日、地方裁判所は、略式判決の交互申立で、Mayoのテストが文言上、’623特許のクレーム7を侵害すると判示した。(Prometheus labs., Inc. v. Mayo Collaborative Servs., No. 04-CV-1200, slip op. at 23 (S.D. Cal. Nov. 22, 2005) (Dkt. No. 227)その判決理由の中で、裁判所は、「必要性を示す(indicates a need)」という文言は「投与量の調整が必要かもしれないという警告」を意味すると解釈した。同上 at 18。この解釈は、代謝物質濃度が特定のレベルに達した場合に薬物投与量を調節することを医師に要求するものではなかった、むしろ、地方裁判所は、そのwherein以下の表現は、「同定された代謝物質が特定のレベルに達したとき、医師が適切な処置であると思うならば、投薬量の調整が必要であると医師へ警告され、または知らされる」ことを意味するものと認定した。同上 at 17-18。
 2007年1月29日に、Mayoは、当該係争対象特許が35U.S.C.第101条に基づく非特許対象をクレームしているとして、訴訟特許は無効であると主張する無効の略式判決の申立を提出した。具体的には、Mayoは、これらの特許が容認できない自然現象-チオプリン系薬剤代謝物質レベルと薬効および毒性との相関作用-を請求対象としていると主張し、そして、そのクレームは自然現象の使用を全く私物化するものであると主張した。
 2008年3月28日、地方裁判所は、35U.S.C.第101条に基づく略式判決のMayoの申立を認めた。最初に、裁判所は、当該特許は一定のチオプリン系薬剤代謝物質濃度と治療効果や毒性との相関作用を特許請求対象としていると認定した。裁判所は、2005年11月の略式判決命令で解釈したように、本クレームは三つの工程を持つと判断した:(1)患者に薬を投与する;(2)代謝物質のレベルを測定する;(3)投薬量の調整の必要性が警告される。裁判所は、発明者が治療方法としてクレームを組み立てたという事実がクレームに特許性を与えていないと述べた。むしろ、裁判所は、「『投与ステップ』および『測定ステップ』は、単に相関作用を利用するための必要なデータ収集ステップであり」、そして「最終ステップ-警告ステップ(即ち、wherein以下の表現)-は、解釈されているように、単に精神的なステップのみである」と認定した。
 Invalidity Opinion、2008 WL 878910, at *6。裁判所は、警告ステップは投薬量の実際の変化を要求するものではない、そして、「それは投薬量の調整が必要であるということを医師へ『警告する』代謝物質のレベルそのものである」と指摘した。同上。裁判所は、このように理解した上で、クレームは6-TGおよび6-MMPの特定の濃度とAZA薬剤を接種している患者の治療効果または毒性との相関作用を説明していると結論を下した。

以下、I.P.R.誌第24巻11号参照

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