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2012.10.24

柏原 雄人

【Cases and Trends】 いよいよ先願主義へ移行するアメリカ – 「実験ノート」はもう不要?

 昨年9月16日に成立したアメリカ特許法の大改正「アメリカ発明法(America Invents Act: AIA)」の重要条項が法成立1年後の本年9月16日に発効し(AIAは「特に規定のない限り、本法は成立の1年後に発効する」と定めています)、再び昨年の成立前後のような注目を集めています。また、昨年成立と同時に発効した規定についても、1年を経た現時点でどのような効果/影響が見てとれるか紹介している専門誌/サイトなども目につくようになりました。例えば、「マーキングトロール問題」対策として新設された「仮想表示(virtual marking)」(製品やパッケージに具体的特許番号を表示する代わりに、特許番号表示がなされている自社サイトのアドレスを付すことで特許法が要求する表示要件を満たしたものと認める。これにより満了した特許の削除などが容易になり虚偽表示の訴えを回避できる)については、この新表示法を効果的に利用している企業の例など、興味深い動きが紹介されています。

 一方、これから発効する重要規定もまだまだあります。一番の注目を集めているのがやはり「先願主義」への移行といえましょう。発効日は法成立の1年半後、2013年3月16日です。すでに米特許庁からは規則案と審査ガイドライン案が公表されており、さまざまな専門家コメントも寄せられているようですが、本コーナーではこの先願移行にまつわる付随的かつ重要な側面を見てみたいと思います。それが標題の「実験ノート」要不要論です。

 いきなり「実験ノートはもう投げ捨てるべきか?」(Should you throw away your lab notebook?)」というストレートなタイトルでこの問題を扱っているのが、企業弁護士協会(Association of Corporate Counsel)のサイトで紹介されている記事です(Nutter McClennen & Fish LLP, 5/22/2012)。一部抜粋(和訳)します。
 
「……2013年3月16日より、米特許庁は『先発明主義』から『先願主義』へと制度を変更する。特許控訴インターフィアレンス部は、特許審判控訴部(Patent Trial and Appeal Board)となり、インターフィアレンス手続きは押しのけられてしまう。一方で、新たに設置された『冒認手続き(Derivation Proceedings)』が開始されることになる。そこでいま、科学の世界にいる多くの者がひとつの疑問をもっている: 『この特許庁における新たな権利獲得競争において、ラボラトリーノートブックにきちんと記録をとることが意味をもつのであろうか?』…… 改正特許法102条(b)(a)(A)によれば、『開示された主題が直接または間接に発明者から取得されたものである場合、新規性(すなわち特許性)を喪失することはない」。すなわち、2013年3月16日以降の特許出願において、ある発明主題が第三者へ開示され、それに基づき先に特許出願がなされた場合、後の出願人は、特許法135条で定められた冒認手続きを申請することができる。この申請は、「先の出願における発明者がクレーム対象発明を冒認したことを具体的に述べ、かつこの出願が真の発明者許可なしになされたことを述べなければならない……」

 そこで申請人(後願者)は、自らが真の発明者であることと当該発明が何らかの手段により先願者に伝えられたことを証明しなければならず、そのために必要となるのが実験ノートへの記録というわけです。冒認と切り離しても発明者の特定やミスの訂正など、実験ノートによる証拠が必要とされる場面は依然少なくなく、いま「投げ捨てる」わけにはいかない、ということになります。もっとも、「冒認手続きで要求される証拠は、インターフィアレンス手続きで要求される証拠と比べ、はるかに入手が困難である。インターフィアレンスの場合、最初の発明者は発明の着想と勤勉さ/精励義務を証明しなければならない。これらの事実は、実験ノートから得られる証拠と、最初の発明者のコントロール下にある他のソースから入手することが可能だ。これに対し、他者の冒認行為を立証することは、とりわけ冒認行為が間接的になされた場合は、困難」ということになります。

 他にスタンフォード大学・技術ライセンス局(Office of Technology Licensing:: OTL)のサイトでは、『ラボラトリーノートブック記載の奨め』と題するリポートが掲載されています。ここでは「…先願主義への移行にもかかわらず、当局(OTL)はすべての研究者がラボラトリーノートに記載し、発明の着想と実施化について文書化しておくことを推奨する」と特に理由説明をすることなく当然のこととして実験ノート記載を促し、この後は7項目にわたり記載上の留意点を記しています。
 
 また、米特許弁護士Gene Quinn氏が運営するサイト”ipwatchdog”に掲載されたレポート『よい発明ノートをつけること』(Keeping a Good Invention Notebook, 6/18/2012)では、改正法では先願主義移行後も極めて狭い範囲のグレースピリオドが与えられており、これに依拠しようというのであれば、発明の様々な側面についてその着想日を示すことが必要になる、と指摘しています。何を発明したのか、いつ発明したのか、その発明を誰かが窃取したかなどを宣誓供述するプラクティスは2013年3月16日以降も存在し、むしろ発明記録をしっかりととることが重要になるのはこれからだ、と強調しています。このレポートでは発明記録の証拠力補強方法として、発明記録を郵便で自分宛に送るという方法の危険性、落とし穴について指摘し、ベストな方法としては、やはり、発明の技術内容について精通している他者に発明記録に署名してもらうこととしています。そのような人が身近にいない場合どうするか…Quinn弁護士は、公証人の公証を得ること、といいます。公証を得るにはどうするか… 「弁護士を介する方法もあるが、銀行に行けばすくなくとも一人は公証人がいるはず。手数料は安いし、あなたのパーソナルバンクへ行けば無料でやってくれるはず」、ということです。
 
 重要性が増すことこそあれ、減ずることはまずなさそうなラボラトリー・ノートブック。いまや日本のリーディングカンパニー、大学ならびに各種研究所の定番となっている NGB Laboratory Notebook のご紹介はこちらをご参照下さい。

(営業推進部 飯野)

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