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2013.07.25

【世界の知財プロに聞く】特別編 Wilfried Peguet氏(フランス・欧州弁理士)

2011年まで合計14の世界の知財プロのお話を掲載してきた本シリーズ。今回は、フランスのIPSILON事務所に所属するWilfried Peguet氏のお話を紹介します。Peguet氏は、フランス・欧州弁理士の資格を有しており、縁あって本年2013年に1ヶ月半の間NGBに駐在していました。
久しぶりの本シリーズとあって、大変ボリュームのある内容ですので、前後編の2回に分けて掲載させて頂きます。
Q1. 自己紹介

Q1-1. お名前と出身地を教えてください。

ウイルフリド・ペーゲと申します。
私の故郷はフランス中央部のロアンヌという町の近くにあります。ロアンヌは、“トロワグロ”という三ツ星レストランがあることで知られています。

Q1-2. 学生時代は何を勉強していましたか?

エンジニア系の“グランゼコール”で学んだ5年間、主に有機化学、高分子化学、プロセスエンジニアリングについて勉強し、化学の修士号を取得しました。 “グランゼコール“とはフランス独特の高度な教育制度であり、一般的な大学制度と並存するものです。その後、国際産業財産権研究センター(CEIPI)で知的財産法を専攻し、知財の修士号を取得しました。
その後、現在所属しているIPSILON事務所にて実務経験をつみ、ヨーロッパ並びにフランスの弁理士資格を取得しました。

Q1-3. 知財業界で働くことを決めた理由を教えてください。

修士課程にて化学を学んだ後、そのまま博士課程に進むか、または知的財産法を学ぶかについて迷いました。そんなとき、既に知的財産法を学んでいた友人の一人に会いました。彼はいかに知財業界が魅力的かについて私に語りました。それが決め手となり、10年前、CEIPIで知的財産法を専攻することに決めました。
今となっては、あのときの私の選択は実に正しいものだったと思っています。知財業界は絶えず進化し続ける、刺激的な分野ですから。

Q1-4. 日本に来る機会は多いのですか?

私が最初に日本に来たのは1999年で、国の研究機関にて1ヶ月間のインターンシップをしました。そのときから、この美しい国にもっと滞在したいと思うようになりました。その一年後、日本で一年半の間、有機化学に関する医薬研究をする機会を得ました。2000年から2001年の間に筑波にある企業の研究所でインターンシップをし、その後、2002年には名古屋にある別の企業で6ヶ月間研究をしました。
今の事務所に入所してから日本に出張する機会があり、2006年から1年に1度は日本へ来ています。

Q2. フランス特許制度の特徴

Q2-1. フランスの特許システムにおいて最も特徴的なことは何ですか?

最も特徴的なのは「侵害の証拠保全(差し押さえ)」というもので、侵害の証拠を得るための最初のステップとしてフランスではよく使われる手続きです。この手続きは、特許権者の要求に従い裁判官によって命じられるもので、権利行使可能な状態にある特許(または特許出願)を原告自身が所有していることを証明するだけで可能です。事前に当事者間でやり取りを行う必要がなく、侵害被疑者への通知なしに行われます。
法律上、裁判官は、専門家(通常、特許権者を代表する特許弁護士)の立ち会いの下で侵害の証拠を確認するための裁判所の役人(執行官)の任命権を、特許権者に対して与えることができます。この手続きでは、侵害被疑製品や侵害に関するあらゆる書類(例えば会計書類)を差し押さえることができます。
この証拠保全を有効にするためには、手続きの日から30日以内に、少なくとも一の侵害被疑者へ令状を送達する必要があることには注意が必要です。

Q2-2. 審査手続き中に審査官と接する機会はありますか?

審査手続き中にフランスの審査官と接することは一般的にはあまりありません。
一方、ヨーロッパ審査官とは、出願手続き中、特に口頭審理前に電話で連絡を取り、コンセンサスを図ることが可能です。その際、審査官は大抵協力してくれます。

Q2-3. フランスで特許出願する際に注意すべきことは何ですか?

フランスへの特許出願手続きは非常に簡単です。というのも、いずれの言語でも出願可能で、クレームがなくても、あるいは単に先の特許出願を参照するだけでも出願日を確保することができるためです。外国語で出願された場合には、出願日から2カ月以内にフランス語の翻訳文の提出が必要です。
ただし、PCT出願でフランスを指定した場合、フランス特許を取得するためにはEP経由である必要がある点に注意が必要です。ドイツやイギリス等と異なり、PCTの指定国として直接フランスへ特許出願することはできません。
また、特殊な事情を除いて、フランス特許出願前のいわゆる「グレースピリオド(猶予期間)」がないことにも注意が必要です。

Q2-4. フランス特許を取得する際、ヨーロッパ特許出願を経由する形(EP経由)と経由しない形(EP非経由(ナショナル出願))の比率を教えてください。

フランス国内の出願人では、EP経由の出願とEP非経由の出願(ナショナル出願)の比率は、およそ20:80です。しかしながら、この比率は外国の出願人の場合では大きく異なり、例えば日本の出願人ではおよそ92:8、米国の出願人では96:4になります。

Q2-5. 外国企業にとって、EP出願を経由せずにフランスにナショナル特許出願をするメリットはありますか?

上述のように、フランスへの特許出願手続きは非常に簡単です。外国企業にとっては、ヨーロッパ特許条約(EPC)の加盟国のうちフランスを含む1,2カ国のみに出願するのであれば、通常はナショナル出願の方が安く済みます。
一方、EPCの加盟国のうち3カ国以上に出願するのであれば、ヨーロッパ特許出願で集中的に審査を進め、ロンドン協定による翻訳費用の圧縮をする方がコスト面で有利となることが多いです。

Q2-6. フランス特許出願における国内企業と外国企業の比率を教えてください。

フランス特許出願における国内企業と外国企業の比率はおおよそ4:6です。ここにおける外国企業とは、ドイツ、アメリカ、日本、スイス、イギリス、イタリア、オランダ、スウェーデン、韓国の企業を指します。フランス特許取得に積極的な国を挙げるなら、ナショナル出願では(1)ドイツ、(2)日本、(3)アメリカの順で、EP出願経由では主に(1)アメリカ、(2)ドイツ、(3)日本の順です。

Q3. フランス国内の知的財産について

Q3-1. フランス国内で盛んな産業は何ですか?

フランス国内で盛んな産業は、自動車、航空、通信、電子、美容、化学、エネルギー分野です。2012年の特許出願人トップ20を見ると、これらの分野を研究している、例えば、プジョー、ロレアル、ヴァレオ、EADS(エアバス)、ルノーなどの国内企業のほかに、CEAやCNRSなどの研究機関、ボッシュやGEなどの外国企業の名前も挙げられています。

Q3-2. フランスでは知財訴訟が頻繁に行われていますか?

過去10年、毎年約350件の特許訴訟が提起され、そのうち約110件が控訴審まで進んでいます。フランスは、アメリカ、中国、ドイツに次ぎ、世界で4番目に特許訴訟が多い国です(日本よりも多い!)。
フランス裁判所への侵害提起の際に使用されるヨーロッパ特許の数は年々増えてきています。現在、フランスの侵害訴訟の6割近くはヨーロッパ特許によるものです。

Q3-3. フランスでの知財産業への就職事情はどうですか?

知的財産の重要性が叫ばれる昨今、フランス国内でも知財産業への就職に人気が出てきています。しかし、そのための勉強量の多さや多数の試験に合格する必要性から、まだまだ弁理士の数は少ないのが現状です。弁理士の大半は、エンジニア系のグランゼコールを経てきており、その後、知的財産法に関する3つの試験に合格する必要があります。少なくともこの教育システムの観点で言えば厳しい道のりと言えると思います。

Q3-4. フランス知財業界でホットな話題を教えてください。

現在最もホットな話題と言えば欧州単一効特許と統一特許裁判所でしょう。欧州メンバーにとって、このような共通特許システムの必要性は1970年からの共通認識でしたから。

今回はここまでです。
次回、後編では、最後の質問で出てきた欧州単一効特許と統一特許裁判所の話題を含む3項目の内容を盛り込んだ記事をお届けします。

(記事担当:特許第1部 杉田 秀、田中 康太郎、長谷川 典子)

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