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2013.11.25

【Cases & Trends】 米最新判決紹介: 血糖値測定方法特許の権利消尽 ― 測定器の無償配布は消尽論適用除外の理由とならず

 本コーナーで特許の権利消尽に関する重要最高裁判決をご紹介してから早や5年以上が経ちました(『権利消尽をめぐる米最高裁Quanta事件判決下される』 Quanta Computer Inc. v. LG Electronics Inc., US SupCt., 6/9/08)。このQuanta判決は、方法クレームへの消尽論の適用可否、販売された製品それ自体は特許を実施するものでない(incomplete article)場合の適用可否、契約による販売後の使用制限の適否など、複数の重要争点に対し一定のガイドラインを示すものと当時は言われました。

 しかしながら、その後の事件でも様々な商取引の実態に応じ、権利消尽の法理は混乱が続いているのが現実のようです。今回ご紹介するのは、そのような事例の最新のものといえます。対象製品は血糖値測定器と血糖試験紙ですが、原告(特許権者)は測定器自体を安く、あるいは無償で提供し、消耗品である試験紙で利益を得ようとしたところ、競合試験紙が現れた。早速、特許侵害を主張したところ、一度市場に置いたものであるため、権利が消尽したという反撃を受けたものです。

 この判決に対しては特に医療機器メーカーなどを代理する弁護士達の間で、今後の医療機器の販売方法やクレームドラフティングに示唆を与えるものとして注目されています。

 以下、レイナ判事の反対意見を含め全41頁あるCAFC判決の骨子をご紹介します。
 (Lifescan Scotland, Ltd. v. Shasta Technologies, LLC, Fed. Cir., Nov. 4, 2013)

事実概要
 原告(被控訴人)LifeScanは、血糖値測定システム“OneTouch Ultra”を製造し、販売している。このシステムは、測定器と使い捨ての試験紙から構成されており、Lifescanは、2つの電極を有する試験紙から得られる数値を測定器で比較する方法を対象とする特許(USP 7,250,105)を取得している。

 LifeScanは、同社が製造したOneTouch Ultra測定器の40%は原価割れ価格で販売し、残る60%については医療機関を通じ、糖尿病患者へ無償で配布していた。LifeScanによれば、最終使用者がOneTouch Ultra試験紙を使って測定してくれることによる収益確保を見込み、このような流通方法を採用したという。

 被告Shasta Technologiesは、血糖値測定器自体は扱っておらず、血糖試験紙”GenStrip”の販売でLifeScanと競合していた。ShastaのGenStrip試験紙は、LifeScanの測定装置で使用されるように作られている。

 2011年9月9日、LifeScanは、ShastaによるGenStrip試験紙の製造と販売が ‘105特許の間接侵害を構成すると主張して(直接侵害者は試験紙の最終使用者)、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。同時にLifeScanは、GenStrip試験紙の製造販売を禁ずる仮差止め命令(preliminary injunction)を請求した。これに対しShastaは、LifeScanの測定器販売行為によって ’105特許の権利が消尽したと主張し、仮差止め申立てを却下するよう地裁に主張した。

 地裁は、権利消尽が適用されるのはあくまで「販売」行為に対してであり、無償配布された60%の測定器には適用されないこと、また、安値販売された残りの測定器についても、そもそも同測定器は ‘105特許を「本質的に具現化した」ものではないことを理由に、権利消尽の適用を否定し、LifeScanの仮差止め申立てを認容した。

 Shastaはこれを不服として、連邦巡回区控訴裁(CAFC)に控訴した。

 - 原判決破棄・差し戻し

判 旨
[方法特許の権利消尽]
 方法の特許に対して権利消尽を適用した(直近の)最高裁判決としては、Quanta事件(Quanta Computer, Inc. v. LG Electronics, Inc., 553 US 617 (2008)) が存在する。Quanta事件は、権利消尽論が方法の特許にも適用されることを確認し、その適用基準を明確にした。

 最高裁は、特許対象が方法であれ製品であれ、重要なポイントは、製品が「当該特許を本質的に具現したものであるか否か」、すなわち、当該発明を完成するのに必要とされる製品への追加ステップがそれ自体「発明性」を有するか否かである、と述べた……。

 本件においてLifeScanは、OneTouch Ultra測定器は ‘105特許の本質的特徴を具現するものではないので、消尽論は適用されないと主張する。……しかしながら、’105特許明細書もその審査経過も、’105特許の方法クレームにおける発明概念は、試験紙ではなく、測定器にあることを示している。当初の出願では試験紙自体もクレーム対象とされていたが、複数の電極をもつバイオセンサ自体には先行技術が存在し、拒絶されている …。 この測定器こそが、試験紙の複数の電極から得られる数値を比較することにより、方法クレームの発明機能を「コントロール」し、「実行」しているのだ。すなわち、本測定器は当該特許を本質的に具現したものであるといえる。

 本件において権利消尽を認めないとすれば、クレーム対象発明でなく、特許性を有しない試験紙の販売における競争の排除をLifeScanに認めることになってしまう。これは、LifeScanに対し抱き合わせ販売を許し、測定器の購入者が競合する試験紙を使用することを阻害することになる。抱き合わせ、権利消尽いずれの事件においても、最高裁は、それ自体特許対象でない取り替え品(消耗品)へ特許独占が及ぶことに対し、とりわけ懸念を示していた。

[無償配布(「販売」でない)行為と権利消尽]
 LifeScanはさらに、測定器が本質的にクレームを具現するものであったとしても、販売されたのでなく、無償で配布された60%の測定器について、消尽論は適用されないと主張した。無償で配布された製品に対し権利消尽が適用されるか否かという問題は、当裁判所にとり先例のない争点(a matter of first impression)である。当裁判所は、(特許権者によって)許諾され、条件を課すことなくなされた権原の移転(authorized and unconditional transfer of title)において、対価を得ていないということ自体は、権利消尽論の適用に対する阻害要因にはならない、と結論する。

 権利消尽の事件において、最高裁はしばしば「販売」や「購入」ということばを用いてはいるが、より根本的に、権利消尽とは、特許対象製品が「譲受人(transferee)の手に移り、彼がそれに対する権原を法的に獲得したときに発生するもの」と表現している……。

 基本的に、特許権者はどのように報酬を受けるかについて選択肢をもっている。特許権者は、「物品およびそれが具現する発明」と引き換えに特定価格を要求することもできる。あるいは、今回LifeScanが行ったように利益を将来得ることを見込んで、物品自体を無償で提供することもできる。しかしながら、特定の価格を請求する代わりに、無償提供することで、権利消尽の適用を回避することはできないのである。

(IP総研 飯野)

⇒ 判決原文はこちら

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