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2015.05.21

【Cases & Trends】 米USTRの2015年スペシャル301条レポート – 中国・インド編 –

2015年4月30日、USTRは“2015 Special 301 Report”を発表しました。4月20日付の本コーナーでは「先取り」と称して、IPOがUSTR(米通商代表部)に提出したレポートから、優先監視国候補である中国とインドの問題点について紹介いたしましたが、今回は本番です。
 
レポートは二部構成になっており、第1部がグローバルな知財保護の展開や傾向についての概観・総括、第2部が国ごとの評価報告です(Section I. Developments in Intellectual Property Rights Protection and Enforcement Section II. Country Reports)。ここでご紹介するのは第2部のカントリーレポートです。

2015年レポートで検討対象となった米国のトレーディング・パートナー72ヵ国のうち、「優先監視国」(“Priority Watch List”)に指定されたのは13ヵ国で、2014年(10ヵ国)より3ヵ国増加。「監視国」(“Watch List”)指定は24ヵ国で、2014年(26ヵ国)より減りました。

優先監視国:
アルジェリア、アルゼンチン、チリ、中国、エクアドル、インド、インドネシア、クウェート、パキスタン、ロシア、タイ、ウクライナ、ベネズエラ

以下、注目度の高い中国とインドについて見てみましょう。レポートの紙数でも中国とインドに割かれる割合が圧倒的に高く、中国が約12頁、インドが約7頁となっています(他の11ヵ国はいずれも半頁から1頁以内)。

中国
中国は国家としての強い意志に基づき、司法、立法、行政面で、知的財産権の保護、法執行において著しい改善を見せ、また米国との対話、合意事項も進展した。立法面では、2013年1月1日発効の改正民事訴訟法により米国の権利保有者が権利行使において暫定救済を得ることが可能になった。また、2014年5月には商標法と実施細則が発効した。司法面では、3年間のパイロットプログラムとして、北京、上海、広州に知財専門裁判所が設置された。… その一方でまだまだ改善を必要とする問題が存在する。

このように、冒頭ではまず中国の努力に敬意を表しつつも、以下の項目を掲げ、それぞれの問題点を指摘しています。
・ICT措置 (*1)
・営業秘密
・政府機関による合法的ソフトウェア使用、オンライン海賊行為他
・模倣品
・知財と技術移転要求
・特許関係その他の政策
 - 知財と技術標準
 - 医薬品の知財保護

(*1 ICT製品/サービス提供者へテロ対策を理由に知財情報の開示を要求したり、中国金融セクターに提供するICT製品/サービスについて中国発知財の利用を条件付けるなどの、政府主導の外国知財取り込み措置)

このなかでも、「営業秘密」および「知財と技術移転要求」の問題はレポート第1部でも指摘されており、中国だけにとどまらない要注意事項と位置付けられています。少し詳しく紹介します。

[営業秘密]
中国における営業秘密の問題は深刻であり、さらに深刻化しつつある問題である。営業秘密の不正流用問題は、従業員の離職、合弁の失敗、サイバー攻撃など様々なシチュエーションで発生するが、中国において特に留意すべき営業秘密流出のリスクとして、政府規制を順守するために提出した情報の漏えいリスクが指摘されている。
他に営業秘密を保護する現行法としての反不正等競争法による保護の弱さも指摘されている。同法の適用対象が「商標活動を行う団体」であり、個人が除外されていること、また、「営業秘密」としての保護適格要件に「実用上の利用可能性」があり、研究初期段階の情報に対する保護が不十分だといわれる。

米国は、中国が2014年12月の米中合同商業貿易委員会(Joint Commission on Commerce and Trade: JCCT)において、営業秘密保護強化を目的としたルール改正を公約したことを歓迎したい。また、中国は、営業秘密保護の保護に特化した新営業秘密法の立法化に関する検討を開始していることを認めている。

[知財と技術移転要求]
イノベーションによる経済発展を急ぐ中国において、政府のとる措置や政策が、外国の権利保有者に不利益をもたらす事態が指摘されている。中国への市場アクセスへの要件として、外国権利者に対し、技術移転を強要するといった措置だ。さきに挙げた、ICT関連製品、サービスについて提案されている政府措置案などはまさにこれに該当する。
2012年から2014年にかけて開催されたJCCTにおいても、中国は「技術移転や技術協力は企業間で独立して決定されるべきものであり、中国政府が市場アクセスの前提条件として利用することはない」と公約している。

米国は中国がこの公約を完全順守し、またそのために必要となるルール改正を実施することを期待する。
例:いわゆる「ハイテク企業認定による優遇税制」の条件として、優遇を受けたい企業が、コアとなる知財の排他的ライセンスを中国当事者に供与することや世界のR&D支出における60%を中国に充てる、といった条件。

インド
インドは現在、初の試みとして「国家知的財産戦略」(National IPR Policy)を策定中であり、2014年12月には第一次草案が公表されました。これに対し2015年1月には米国もコメントを提出したということです。レポートでは、インドが引き続き様々なステークホルダーの声を聴きつつ、最終案を固めてゆくことを求めるとともに、改めて以下のとおり問題点を指摘しました。

・著作権と海賊行為
・特許および政府規制関連データ保護
・営業秘密/トレードシークレット
・商標と模倣
・ローカライゼイション・トレンド

本稿では、「特許および政府規制関連データ保護」のなかで指摘されている強制実施(compulsory license)問題について、本文から一部抽出してご紹介します。

― いまのところインド特許法第84条に基づきインド政府が認めた強制実施は1件に過ぎない。しかし、インド政府は、強制実施について、クリーンエネルギー分野における技術移転の実現に利用しうるメカニズムであると強調するなど、重要な産業政策ツールとみなしていることを明らかしている。また、国連会議の場(UNFCCC)では、特許が気候変動に対応する技術の伝播に対する障害になるという考えを表明している。
しかし、環境技術特許によって、イノベーションや技術移転が促進されていることは多くの実例で証明されている。インド自身が、特許制度に支えられて、複数の環境技術分野におけるグローバル・マニュファクチャラーになっている。インドが引き続き、このような公正で、オープンな制度・環境を発展させてゆくことを望む。

⇒ 2015 Special 301Report原文はこちら

(営業推進部・飯野)

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