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2017.05.18

【短期集中連載】欧州単一特許 =新制度の開始に向けて= 第1回:いつ始まるのだろうか?

・はじめに
 今から約1年前の2016年6月28日・29日、NGBでは、ドイツのGrünecker特許法律事務所をお招きして欧州単一特許(単一効特許・統一特許裁判所)をテーマとしたセミナーを開催致しました。
 当時の予測では、2017年前半にも単一特許制度が本格的にスタートすると言われていたため、それを見越して開催したセミナーでした。しかし、セミナー開催の約1週間前の2016年6月23日に、イギリスのEU離脱という衝撃的なニュースが飛び込んでまいりました。後述のとおり、イギリスは制度の開始に重要な役割を担っているため、イギリスのEU離脱は単一特許制度の開始時期にネガティブな影響を与えることが懸念されました。
 2017年も3分の1を経過しましたが、やはり、まだ単一特許制度は開始されていません。しかし、開始の条件は整いつつあるようです。
 NGBでは、最新の動向を逐次把握し、制度開始と同時にお客様をサポートできるよう努めております。今回の連載では、欧州単一特許制度の開始に向けた情報を幅広く発信していく予定です。宜しくお願い致します。
 それでは早速、第1回を開始致します!

第1回:いつ始まるのだろうか?
 連載第1回目の今回は、EU各国におけるUPC協定の批准状況を中心に、単一特許制度の開始に向けてのスケジュールについてお話し致します。

<単一特許制度開始の条件>
 欧州単一特許制度は、欧州特許の保有数の最も多いEU加盟国3国を含む13ヵ国によりUPC協定が批准されてから4月目の最初の日に発効すると規定されています(UPC協定第89条)。欧州特許の保有数の最も多いEU加盟国3国は、ドイツ、イギリス、フランスです。

<各国のUPC協定批准状況>
 さて、それでは現時点での批准状況はどうなっているのでしょう?
 2017年5月1日時点での批准国は、オーストリア、フランス、スウェーデン、ベルギー、デンマーク、マルタ、ルクセンブルク、ポルトガル、フィンランド、ブルガリア、オランダ、イタリアの計12カ国です(批准完了順)。
*イギリスとドイツはまだ批准していません。

 イギリスとドイツが批准さえすれば、単一特許制度の開始条件が整うことになります。

<イギリス・ドイツの批准状況>
 さて、それではイギリスとドイツの状況はどうなっているのでしょう?
 イギリスについては、EU離脱の影響が懸念されていましたが、2016年11月28日付で、当時の英国知的財産担当大臣Neville-Rolfe氏がUPC協定を批准することを表明しました。これにより、イギリスがUPC協定を批准しないことにより単一特許制度の開始が大幅に遅れるという最悪の事態はひとまず回避しました。
 その後、イギリスの議会は、UPC協定を批准して単一特許制度を実施するための国内法の整備を進めておりました。しかし、議会を解散し、2017年6月8日に総選挙を行うことが最近になって発表されました。これにより、現在、議会での法案採択プロセスが停止しています。さらに、6月8日の総選挙後も、7月20日から9月5日までは夏季休暇のため法案採択プロセスが再度停止されます。そのため、イギリスでの法案採択が進まず、これにより単一特許制度の開始時期が遅れることが予想されます。
 ドイツについては、2017年の5月中に連邦参議院がUPC関連法案を採択することが予想されており、UPC協定の批准にまた一歩近づくことになります。ただし、ドイツはイギリスの批准後に批准をすることが有力視されています。

<まとめ>
 上記の通り、イギリスとドイツがUPC協定を批准することにより、ようやく単一特許制度の開始に向けての条件が整うことになります。
 新制度の開始時期については、一時は2017年12月1日とも言われておりましたが、解散総選挙の影響によりイギリスの批准にはもう少し時間を要することが予測されますので、早くても2018年前半と予想されます。今後、新制度の開始を遅らせるような出来事が起こる可能性は否定できませんが、イギリスとドイツはともにUPC協定の批准に向けた姿勢は維持しており、制度開始に向けて追い風が吹いている状況といえるのではないでしょうか。
 今後は、単一特許制度の開始の鍵を握っているイギリスの動向を注視していき、最新の情報をお届けできるよう努めて参りたいと思います。

 次回は、「単一特許制度の開始に向けて、いまできる準備」について、お話しする予定です。乞うご期待!

(記事担当:特許第1部 田中)

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