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2020.12.18

小林達也

【特許・意匠ニュース】 カナダ、特許可能な主題に関する新たなガイドラインを公表(概要、コンピュータ実装発明への適用例)

 2020年11月3日、カナダ知的財産局(CIPO)は、特許可能な主題に関する新たなガイドラインおよびその適用例(コンピュータ実装発明、医療診断方法、医薬用途)を公表しました[1][2]。

 新たなガイドラインでは、特許可能な主題であるか否かを判断していた従来の手法が見直され、新たな手法が導入されました。今回の新たなガイドラインに沿って特許可能な主題を判断する際、クレームに記載された要素は原則として全て重要な要素と推定されること、および、クレームの「実体発明(actual invention)」という概念を導入して特許可能な主題か否かを判断すること、がポイントとなっています。

 本記事では、まず(1)カナダ特許法に規定される特許可能な主題を説明した上で、今回公表された(2)新たなガイドラインの概要および(3)コンピュータ実装発明への適用をご紹介します。医療診断方法と医薬用途については、別の記事でご紹介します。

(1) 特許可能な主題
 特許可能な主題であるためには、カナダ特許法第2条に規定される「発明」であること、および、第27条(8)に規定される「特許されないもの」に該当しないこと、という要件を満たす必要があります。具体的には、「発明」は、新規かつ有用な技術や方法、機械、生産物、合成物などのことを指し、「特許されないもの」は、単なる科学的原理や抽象的定理のことを指します。

(2) 新たなガイドラインの概要
(2.1) 背景
 従来、特許可能な主題か否かを判断する際、クレームの重要な要素を決定するために、カナダ知的財産局は「課題解決アプローチ」という手法を用いていました。この課題解決アプローチは、1)出願に開示された課題を特定し、2)その特定された課題の解決に必要な要素を重要な要素と解釈するアプローチです[3]。この課題解決アプローチを用いて特許可能な主題を判断する際、審査官は、クレームのある要素(例えば、コンピュータ要素)を重要な要素ではないと容易に認定し、他の残った重要な要素(例えば、アルゴリズム)が物理的性質を有していないことを理由に、発明が特許可能な主題ではないと指摘することがしばしばあったようです。

 2020年8月21日、Choueifaty v Canada (Attorney General), 2020 FC 837事件(以下Choueifaty事件)において、カナダ連邦裁判所は、審査官がクレームのある要素を重要ではないと容易に認定できるような従来の課題解決アプローチを否定し、過去の最高裁判決で要求されている合目的的解釈論(purposive construction)を適用してクレームを解釈すべきと強調しました。

 Choueifaty事件の判決を受け、今回公表された新たなガイドラインでは、特許可能な主題を判断する際、従来の課題解決アプローチを用いず、合目的的解釈論に沿ったアプローチを適用する点が明確にされました。

(2.2) 特許可能な主題の新たな判断手法
 新たなガイドラインによると、特許可能な主題であるかを判断する際、以下の3ステップを踏みます[4]:
 I. クレームの「重要な要素(essential elements)」を特定する
 II. クレームの「実体発明(actual invention)」を決定する
 III. クレームの「実体発明」が物理的性質を有するか否かを判断する

 ステップI.では、合目的的解釈論に沿って、クレームの重要な要素を特定します。原則として、クレームの全ての要素が重要と推定されることとなり、従来の課題解決アプローチとは大きく異なっています。

 ステップII.では、ステップI.で特定された「重要な要素」に基づいて、クレームの「実体発明」を決定します。「実体発明」は、課題の解決を提供する単一要素と、互いに協働して課題を解決する複数要素の組み合わせと、のいずれかで構成されます。注意されたい点としては、ステップI.で特定された重要な要素が、必ずしも「実体発明」となるわけではないことです。例えば、出願人が意図してクレームに含めた要素(すなわち、重要な要素)であっても、その要素が課題の解決に寄与しなければ、その要素は「実体発明」には該当しません。

 ステップIII.では、ステップII.で決定された「実体発明」が物理的性質を有するか否かを判断します。より詳細には、「実体発明」が物理的な存在物を有しているか、または、認識可能な物理的効果または変化を明示しているかを判断し、さらに、「実体発明」が手動的または生産的な技術に関するものであるかを判断します。「実体発明」が物理的性質を有する場合には、特許可能な主題と判断されます。

(3) コンピュータ実装発明への適用
 コンピュータ実装発明は、(a)コンピュータ要素が他の物理的な要素と組み合わさってクレームに含まれている場合と、(b)他の物理的な要素なしにコンピュータ要素だけがクレームに含まれている場合が考えられます。ここで、(b)の場合には、コンピュータ要素が「実体発明」に含まれるために、コンピュータの機能面に関する課題を解決する必要があります。以下、(a)および(b)について、具体的に説明します。

 (a)の場合については、例えば、センサで取得されたデータを、コンピュータで実行されるアルゴリズムXで分析するクレームが、特許可能な主題であるか否かを判断する場合が考えられます。上述したステップI.で、原則としてクレームの全ての要素が重要と特定されます。ステップII.で、「実体発明」がセンサとコンピュータとの組み合わせと決定されます。センサで取得されたデータをアルゴリズムXで分析することによってより良い分析結果が得られるので、センサとコンピュータは、協働して課題を解決する複数要素の組み合わせに該当するためです。ステップIII.では、センサが物理的な存在物であり、すなわち、「実体発明」が物理的性質を有するため、本クレームが特許可能な主題であると判断されます。

 (b)の場合については、例えば、入力されたデータを、コンピュータで実行されるアルゴリズムXで分析するクレームが、特許可能な主題であるか否かを判断する場合が考えられます。(a)の場合と異なり、「センサ」をクレームに含めず、データの入力を一般的な入力処理としてクレームに記載しています。この場合、コンピュータがステップII.における「実体発明」に含まれるか否かが問題となります。コンピュータがアルゴリズムXと組み合わさって、コンピュータの課題を解決するものであれば、コンピュータとアルゴリズムXとの組み合わせが「実体発明」と決定されます。例えば、アルゴリズムXにより計算処理の負荷が軽減される場合、コンピュータの機能を向上するという課題を解決します。ステップIII.では、「実体発明」に含まれるコンピュータが物理的な存在物であり、すなわち、「実体発明」が物理的性質を有するため、本クレームが特許可能な主題と判断されます。
 ただし、上記(b)の例において、コンピュータがアルゴリズムXと組み合わさって、コンピュータの課題を解決しない場合には、コンピュータは「実体発明」には含まれません。この場合、ステップII.で「実体発明」がアルゴリズムXを含む処理と決定されますが、ステップIII.で「実体発明」が物理的性質を有しないと判断されるため、クレームが特許可能な主題ではないと判断されます。

(参考)
[1] 新ガイドライン:http://www.ic.gc.ca/eic/site/cipointernet-internetopic.nsf/eng/wr04860.html
[2] 適用例:http://www.ic.gc.ca/eic/site/cipointernet-internetopic.nsf/eng/wr04861.html
[3] SMART & BIGGAR事務所、2020年8月31日付記事:https://www.smartbiggar.ca/insights/publication/problem-solution-approach-computer-implemented-inventions
[4] SMART & BIGGAR事務所、2020年11月9日付記事:https://www.smartbiggar.ca/insights/publication/cipo-new-guidelines-on-patentable-subject-matter-explained?utm_source=IP_Update

記事担当:特許第1部 小林

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