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2021.03.23

三俣

【特許・意匠ニュース】 中国、化学・生物分野における審査指南の改正

中国国家知識産権局は2020年12月11日に「『専利審査指南』の改正に関する国家知識産権局の決定」を公布し、2021年1月15日より施行しました。本決定は、化学・生物分野における審査指南を改正するものです。主な改正点は以下の通りです。
・専利出願の補充された実験データついての規範化
(第2部分第10章 3. 化学発明の充分な開示 3.5 補充の実験データに関して)

出願日後に提出される補充実験データに関する「3.5 補充された実験データに関して」は、本改正により、「3.5.1 審査の原則」と「3.5.2 医薬品の専利出願における実験データの補充」とからなる構成となりました。
(1)「3.5.1 審査の原則」
 本改正にて、「審査官は、出願日後に出願人が専利法第二十二条第三項(進歩性)、第二十六条第三項(実施可能性)等の要件を満たすために補充の実験データに対しこれを審査しなければならない。補充された実験データが証明する技術的効果は専利出願の開示内容から当業者により得られるものでなければならない。」(下線部が本改正による修正箇所、括弧書きは筆者の補足追記)と記載され、審査の対象となる補充実験データの要件が具体的に明記されました。
(2)「3.5.2医薬品の専利出願における実験データの補充」
 本改正により新たに追加された項目で、医薬品に関する補充実験データについての2つの審査例が記載されました。これらの審査例は、「3.5.1審査の原則」に基づく医薬品の専利出願に係る補充実験データの審査事例になります。

・組成物の請求項に関する改正
(第2部分第10章 4. 化学発明の請求項 4.2組成物の請求項 4.2.3組成物の請求項における他の限定)

 「4.2.3組成物の請求項における他の限定」では、組成物の請求項が一般的に、非限定型、性能限定型、及び用途限定型の3つのカテゴリーに分類され、各カテゴリーの請求項が許される場合が規定されています。
 非限定型の請求項が許されるのは、組成物が2つ又は複数の使用性能および応用分野を有する場合と規定されています。
 一方、性能限定型および用途限定型の請求項については、本改正前は、明細書において組成物の1つの性能や用途のみが公開されている場合には「性能限定型または用途限定型として記載しなければならない」と記載されていました。本改正により、「通常、性能限定型または用途限定型として記載する必要がある」(下線は筆者追記)に変更され、組成物の請求項を性能限定型又は用途限定型とすべきかどうかは、状況に応じて判断されることが明確にされました。「『専利審査指南』の改正の解説」によると、この変更は、出願人の正当な権利と利益を保護するためのものであるとされています。

・化合物の新規性に関する改正
(第2部分第10章 5. 化学発明の新規性 5.1化合物の新規性)

(1)改正前は、引用文献に保護を求める化合物が言及されている場合は、その化合物は新規性を有しないと推定される旨が記載されておりました。ここでいう「言及」とは、「化合物の化学名、分子式(又は構造式)、物理化学パラメータ又は調整方法(原料を含む)を明確に定義し、又は説明していることをいう」と定義されておりました。
改正後は、引用文献中に化合物の化学名、分子式(又は構造式)等の構造情報が記載されることにより、保護を求める化合物がすでに開示されていると当業者に認識させる程度であれば、当該化合物は新規性を有しないことが明記されました(「推定」の文言も削除されております)。
(2)改正前は、構造情報の識別が難しい、または不明瞭である場合でも、パラメータか、調製方法のいずれかが引用文献に開示されていれば新規性を有しないと推定されておりました。
改正後は、引用文献に記載の構造情報によって保護を求める化合物と引用文献に開示されている化合物の差異が認定できない場合であっても、同引用文献に記載の構造情報以外の情報(物理化学パラメータ、調製方法、および効果に関する実験データなど)を組み合わせて総合的に考慮することが明記されました。もし両化合物が実質的に同一であると推定する十分な理由を当業者が有する場合には、出願人が構造に確実に違いがあると証明する証拠を提出することができない限り、保護を求める化合物は新規性を有しないと明記されました。

・化合物の進歩性に関する改正
(第2部分第10章 6. 化学発明の進歩性 6.1化合物の進歩性)

化合物の進歩性については、以下の3点について審査基準の整備がなされました。

(1)進歩性判断時の「三歩法」の明確化
 以下の三段階の判断方法からなる「三歩法」((i)~(iii)は筆者追記)が審査指南中に明記されました。審査官はこの判断方法に沿って化合物の進歩性を決定することになります。
(i) 保護を求める化合物と、最も類似している従来技術の化合物との間の構造上の違いを確定し、
(ii) この構造改良により得られた用途及び/又は効果に基づき、発明が実際に解決する技術的課題を確定し、
(iii) 従来技術全体においてこの構造改良を通じて上記の技術的課題を解決する技術的示唆があったかどうかを判断する。

(2)「予期できない技術効果」の位置づけの明確化
最も類似している従来技術の化合物に対して行われた構造改良がもたらす用途及び/又は効果が、既知の化合物とは異なる用途を得ることであってもよく、もしくは既知の化合物が有する効果の改良であってもよい旨が記載され、用途の改良及び/又は効果の改良が予測不能である場合、進歩性が認定される旨が明記されました。

(3)進歩性判断例の変更・追加
 新たに「(4) 進歩性の判断事例」の項目を設け、5つの例を通じて進歩性の判断基準を説明しています。

・生物材料の寄託機関に関する改正
(第2部分第10章 9. 生物技術分野における発明の専利出願の審査 9.2.1生物材料の寄託)

 生物材料試料寄託機関として、これまでの中国微生物菌種寄託管理委員会普通微生物センター(CGMCC, 所在地:北京)、中国典型的培養物寄託センター(CCTCC, 所在地:武漢)の2か所に加え、新たに広東省微生物菌種寄託センター(GDMCC, 所在地:広州)が追加されました。

・モノクローナル抗体のクレームに関する改正
(第2部分第10章 9. 生物技術分野における発明の専利出願の審査 9.3.1.7 モノクローナル抗体)

モノクローナル抗体のクレームについて、モノクローナル抗体の構造の特徴またはモノクローナル抗体の作製に用いるハイブリドーマによって規定できることが本改正により明記されました。「『専利審査指南』の改正の解説」によると、この改正はモノクローナル抗体の構造情報の取得が容易になったことによるものであるとのことです。

・バイオテクノロジー分野における発明の進歩性に関する改正
(第2部分第10章 9. 生物技術分野における発明の専利出願の審査9.4.2 進歩性, 9.4.2.1 遺伝子工学にかかる発明)

バイオテクノロジー分野における進歩性の審査においても「三歩法」の明確化および技術発展に対応する趣旨で進歩性判断の一般的な基準の概説が追加されました。
バイオテクノロジーの分野において、発明が際立った実質的特徴及び顕著な進歩を有するかについて判断されることが明記され、判断過程において、
(i)最も類似している従来技術との異なる特徴を確定した後、
(ii)その異なる特徴により発明において達成できた技術的効果に基づき実際に解決した技術的課題を確定し、
(iii)従来技術全体において技術的示唆があったかどうかを判断する、
すなわち「三歩法」により進歩性が判断されることが明記されました((i)~(iii)は筆者追記)。
バイオテクノロジー分野の発明においては、生体高分子、細胞、微生物個体など、様々なレベルの保護主題に係ります。従来技術との構造的違い、近縁度、技術的効果の予想可能性を考慮して、進歩性を判断する必要があることも明記されました。
併せて、上記一般的な基準に沿った、「遺伝子工学」、「ポリペプチド又はタンパク質」、「組み換えベクター」、「形質転換体」、「モノクローナル抗体」について記載の追加・変更や具体例の追加がなされました。

(参考)
・中国国家知的産権局
「『専利審査指南』の改正に関する国家知識産権局の決定」公告

「『専利審査指南』の改正の解説」

・JETRO
「専利審査指南」の改正に関する国家知識産権局の決定
(2021年1月15日施行、日本語訳)

「専利審査指南」修正対照表
(2021年1月15日施行、日本語訳)

「専利審査指南」
(2010年2月1日改正版、日本語訳)

「専利審査指南」の改正に関する国家知識産権局の決定
(2017年3月2日発表、日本語訳)

(記事担当:特許第2部 山口 敦貴)

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