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2022.01.11

特許部 田代翔

【特許・意匠ニュース】中国、特許年金に関する滞納金を適切に納付しなかったことによる特許権終了の判決

概要

特許年金及び滞納金の不足払いを理由とした特許権終了通知について、原告はこの通知の取消を請求する訴訟を提起しました。しかし裁判所は原告の請求を棄却しました。

背景

裁判所にて事実と認定された事実は以下の通りです。

  2011年1月12日   原告と特許代理人の間で委任状が締結される。
  2011年1月21日   対象特許が出願される。願書には出願人(原告)及び特許代理人が明記されている。
  2012年1月12日   紙出願から電子出願への変更要求を原告が特許庁に提出する。
  2012年1月17日   特許庁から電子出願への変更を認める通知が特許代理人に送付される。
  2013年4月3日   対象特許に対して認可通知が発行される。
  2019年2月27日   特許庁から原告に対し第9年度の年金600元及び滞納金の支払期限を知らせる通知が発行される。特許庁が提出した証拠によると、この通知は特許代理人宛てに送付されており、同日にダウンロードされている。
  2019年3月27日   原告が特許庁に600元を支払う。
  2019年4月1日   特許庁から原告に対し特許料支払受領書が発行される。支払い受領書には特許年金400元及び滞納金200元の支払と示されている。
  2019年8月28日   特許庁から第9年度の年金及び滞納金の全額が支払なれなかったことを理由として対象特許権が2019年1月21日に終了した旨の通知が発行される。
特許庁が提出した証拠によると、この通知は特許代理人宛てに送付されており、同日にダウンロードされている。
  2020年1月10日   特許庁により対象特許終了の公告が行なわれる。
  2020年3月28日   原告が訴訟を提起する。

原告の主張

本訴訟における原告の主な主張内容は以下の通りです。

1. 原告は2019年3月27日に電話にて特許料について特許庁に相談していた。その時、特許庁は滞納金を支払うよう原告に知らせなかった。そのため原告は特許庁に未納年金である600元のみを支払った。

2. 原告は「期間終了時において特許年金を支払っていなかった」のではなく「期間終了時に特許年金全額を支払っていなかった」のであるから特許庁は特許が終了する前に再度催告すべきであったが、法的根拠なく対象特許を終了させている。

3. 原告は2015年以降、特許代理人との代理人関係を終了させているため、2015年以降において特許代理人に対して送達された料金支払い通知は無効である。

また、原告が2020年4月13日に提出した「住所等状況説明」によれば原告は特許庁に住所変更の手続きを行っていなかったものの、2015年に特許権者の名義で2件の特許の副本を取り寄せ、連絡先として住所、担当者、電話等の情報を残し、且つ特許庁はその住所に副本及び付属書類を郵送した。すなわち、特許庁は郵送により原告に対して送達ができたはずであるが、原告は特許庁から如何なる費用納付通知書及び特許権終了通知書を受け取っていない。すなわち、特許権回復の期限が経過しておらず、特許庁への回復申請は違法に拒絶されている。

4.2019年2月27日に発行された支払期限の通知はダウンロードされていない。原告が提出した特許庁データベースのスナップショットによると、特許庁が代理人宛てに発行した費用納付通知書及び特許権終了通知書のダウンロード日時とダウンロードipアドレスの欄が空白となっている。

裁判所の判断

1. 第一審裁判所(北京知的財産権裁判所)の見解

第一審裁判所は以下の見解のもと、原告の請求を棄却しました。

・上記原告の主張1について:
対象特許の特許証には毎年1月21日前までに特許年金を支払わなければならないこと、及び特許年金を支払わなかったことによる法的効果が記載されている。そして原告は特許庁に電話をした2019年3月27日の時点にはすでに当年度の特許年金の支払期限が経過しており滞納金も同時に支払うべきである。原告は2016年6月17日において滞納金を支払った経験があるため、原告は同時点に滞納金を支払わなければならないことを知っているべきであり、特許庁への電話相談において滞納金も同時に支払うべきであることを明確に告知されなかったという理由は成立しない。

・上記原告の主張2について:
原告は期限内に第9年度の年金を支払っておらず、特許庁から納付通知書が発行された後、特許庁に600元を支払ったが、上記金額は支払うべき年金と滞納金に対し不足しており、特許庁が法律に基づき対象特許の終了を決定したことは、専利法実施細則第98条*の規定に合致している。

また、専利法実施細則第6条*によると、原告が不可抗力により特許年金を支払うことができなかった場合に特許庁に対して権利回復を要求することができるが、特許庁が年金未納により権利を終了させたことについては不当とはいえない。仮に特許庁が対象特許を回復しなかったことが違法であると原告が考えるのであれば、別途行政訴訟を提起すべきである。この主張については本件行政訴訟の審理範囲外である。

———*専利法実施細則第98条
 特許権付与年以後の年金は、前年度の期限満了前に納付しなければならない。特許権者が未納付または納付不足の場合、国務院特許行政部門は年金納付期限の満了日より6ヵ月以内に追納すると同時に滞納金を支払うよう特許権者に通知しなければならない。滞納金の金額は、規定の納付期限を1ヶ月過ぎる毎に、その年の年金全額の5%を加算する基準で計算する。期限が満了になっても未納付の場合は、特許権は年金納付期限満了日をもって終了するものとする。

———*専利法実施細則第6条第1項
 当事者が不可抗力の事由により、専利法又は本細則に規定する期限或いは国務院特許行政部門が指定した期限に間に合わなかったため、その権利を消滅させた場合は、障碍が取り除かれた日より起算して2ヶ月以内に、遅くても期限の満了日より起算して2年以内に、国務院特許行政部門に権利の回復を請求することが出来る。

・上記原告の主張3について:
まず2011年1月12日に原告と特許代理人との間で締結された委任状は有効である。この委任状では、原告が特許代理人に全ての特許事項を取り扱うことを委託している。

次に、紙出願から電子出願への変更請求が承諾されている。そして特許庁は専利法実施細則第4条第2項*に基づいて、原告により指定された特許代理人に書類を電子送付していたものである。

さらに専利法実施細則第119条第2項*によれば、原告は代理人契約終了後に特許庁に対して変更登録手続きを行わなければならず、原告はこの義務を怠ったことによる法的効果を負わなければならない。特許庁は法律に従って、特許代理人の指定された担当者に対して電子発行により支払通知を送付している。

———*専利法実施細則第4条第2項
 国務院特許行政部門による各種の書類は、郵送、直接交付、又はその他の方法によって当事者に送達することが出来る。当事者が特許代理機関に委任している場合は、書類を特許代理機関宛てに送付する。特許代理機関に委任していない場合は、書類は願書に指定された連絡人宛てに送付する。

———*専利法実施細則第119条第2項
 発明者の氏名、特許出願人と特許権者の氏名又は名称、国籍及び住所、特許代理機構の名称、住所及び代理人の氏名を変更する場合は、変更理由の証明材料を添えて、国務院特許行政部門で書誌的事項の変更手続を取らなければならない。

・上記原告の主張4について:
書類がダウンロードされたか否かについて当事者間で争っているが、電子特許出願において特許庁の書類発行日から15日後を出願人による書類受領日と推定すべきである。したがって支払通知がダウンロードされたか否かは当該通知発行の有効性に影響しない。

2. 第二審裁判所(最高人民法院)の見解

第二審裁判所は第一審裁判所の見解を支持し、原告の請求を棄却しました。第二審裁判所は第一審裁判所の上記見解に加え、滞納金を含めた特許年金全額を支払うことは特許権者の法的義務であり、特許権者は上記義務を知っているべきであり、特許権者の主観的な納付を拒否する意思の有無は無関係であるとの見解を示しています。

実務において注意すべき事項

1. 変更登録手続き
特許庁が発行した書類を適切に受領すべく、代理人契約を終了あるいは代理人を変更した場合は、変更登録手続きを忘れずに行うことが重要であると考えられます。

2. 特許年金全額の支払い
本事件では、原告は特許庁への相談内容をもとに料金を支払っていますが、裁判所は、滞納金を含めた特許年金全額を支払うことは特許権者の法的義務であり、特許権者は上記義務を知っているべきであることを示しています。特許権者の主観的な納付を拒否する意思の有無は無関係であるとの見解です。
すなわち、特許年金及び滞納金を納付する期限及び金額は自らの責任で正確に管理・把握する必要があります。弊社では適時に適切な特許年金の支払い手続きを行うことができるよう、お客様をサポートいたします。

(参考)
・最高人民法院 判決文要約(中国語のみ)
http://enipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-1528.html

・TEE & HOWEの記事(中国語のみ)
http://www.teehowe.com/news.php?id=518&cid=18

記事担当:特許部 田代 翔
監修:顧問 張 華威(中国弁護士・日本付記弁理士)

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