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2022.01.20

特許部 高橋卓也

【特許・意匠ニュース】欧州統一特許裁判所、2022年後半にオプトアウト受理開始か

2022年1月18日、オーストリアが統一特許裁判所協定(Agreement on a Unified Patent Court : UPCA)の暫定適用に関する議定書(Protocol on Provisional Application : PPA)の批准書をEU理事会事務局に寄託しました。2013年2月に当時のEU加盟国24か国がUPCAに署名してから約9年、今回のオーストリアのPPA批准により、欧州の統一特許制度の開始に向けた最終準備が漸く本格的に開始する見込みです。

欧州の統一特許制度は、UPCAに基づく統一特許裁判所(UPC)とEU規則に基づく単一効特許(Unitary Patent)の2本柱からなり、UPCAの発効により開始します。UPCAの発効は、UPCA署名の前年において有効な欧州特許の数が最も多いEU加盟国「3か国」を含む13か国によるUPCA批准から4か月後の初日と規定されています(UPCA第89条)。この「3か国」は、UPCA署名当時はドイツ、フランス、イギリスでしたが、イギリスがEUから離脱してUPCA批准を撤回したことにより、現在ではドイツ、フランス、イタリアの3か国となっています(図1の★参照)。ドイツでは、2021年7月に連邦憲法裁判所がUPCAの批准を巡る2度目の違憲申立を退け、翌8月にUPCA批准のための国内法が議会の承認を経て発効しています。ドイツがUPCAの批准書をEU理事会事務局に寄託するとUPCA発効の条件が満たされることになりますが、統一特許制度の開始に向けた準備が整うまでは、ドイツはその最後の手続きを差し控えると言われてます。

図1:EPC加盟国、EU加盟国、およびUPCA批准状況(2022年1月18日現在)

統一特許制度の開始に向けた準備のためにUPCAの一部を暫定的に適用する期間が、暫定適用期間(Provisional Application Phase: PAP)です。この暫定適用期間は、PPAの発効により開始します。PPAの発効日は、ドイツ、フランス、イギリスを含むUPCA署名国13か国が、UPCAを批准またはUPCAの批准について自国の議会の承認を得ている旨を通知している状態であり、且つ、PPAに従うことに同意しているという条件を満たした翌日、と規定されています(PPA第3条)。UPC準備委員会のレポートによれば、UPC準備委員会のRamsay委員長は、イギリスが統一特許制度から離脱した後のPPA第3条の解釈に関して、2021年10月27日に開催されたUPC準備委員会の会合において、UPCA第89条と同様の解釈に基づくEU加盟国13か国がPPA第3条の条件を満たしている状態をもってPPAが発効する旨の宣言書を提案しています。この会合に参加した各国代表はRamsay委員長のこの提案を支持し、今後のEU常任代表委員会(COREPER)の会合において当該宣言書の署名式を行うことについてRamsay委員長に委任したと報告されています。

今回のオーストリアのPPAの批准書の寄託により、UPC協定第89条と同様の解釈に基づくEU加盟国13か国、すなわち、ドイツ、フランス、イタリアを含む13か国(図1の黄色テキスト参照)がPPA第3条の条件を満たしている状態となり、PPA発効の条件が満たされたことになります。PPA第3条のこの解釈については、2021年12月15日のJUVE誌によるRamsay委員長インタビュー記事においても確認することができます。

暫定適用期間では、UPCの裁判官の採用や管理システム(Case Management System: CMS)等の準備が行われます。UPC準備委員会は、この暫定適用期間における準備に約8か月かかると公表しています。暫定適用期間の後半には、既存の欧州特許及び欧州特許出願についてUPCの専属管轄から除外する「オプトアウト」の事前申請が可能となるサンライズ期間が設けられる予定です。すなわち、準備が円滑に進んだ場合、2022年後半にはサンライズ期間に入る可能性があります(図2参照)。「オプトアウト」の詳細については、弊社の過去記事をご参照ください。

図2:準備が円滑に進んだ場合の予想タイムライン

このサンライズ期間が始まる前後の段階では、ドイツがUPCAの批准書をEU理事会事務局に寄託し、UPCAの発効日が確定していることが予想されます。特許付与の公告日がUPCAの発効日以降となる欧州特許出願については、単一効特許(Unitary Patent)の取得が可能となります。サンライズ期間中は、既存の欧州特許のオプトアウトの要否のみならず、係属中の欧州特許出願、特にEPC規則71(3)に基づく通知が発行されている(実体審査が完了して特許可能な状態にある)欧州特許出願について、単一効特許を取得するのか、単一効特許を取得しないで従来通り各国で権利を登録する場合にはオプトアウトを申請するのか、といった検討も必要になるでしょう。

弊社では欧州統一特許制度の動向について引き続き情報収集を行うとともに、サンライズ期間におけるオプトアウト及び単一効特許の取得のオプションについて適切なタイミングでお客様にご案内できるよう準備を進めて参ります。

参考URL:
UPC準備委員会、2022年1月19日ニュース、Austria closes the loop – the Protocol on Provisional Application of the UPC Agreement has entered into force
https://www.unified-patent-court.org/news/austria-closes-loop-protocol-provisional-application-upc-agreement-has-entered-force
European Union, Country Profiles
https://european-union.europa.eu/principles-countries-history/country-profiles_en
EPO, Guidelines for Examination, General Part, Contracting states to the EPC
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/foreword_6.htm
UPCA批准状況
https://www.consilium.europa.eu/en/documents-publications/treaties-agreements/agreement/?id=2013001
PPA同意状況
https://www.consilium.europa.eu/en/documents-publications/treaties-agreements/agreement/?id=2015056

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