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2022.08.09

営業推進部 飯野

【Cases & Trends】注目の米コネクテッドカーSEP訴訟(Continental v. Avanci)アップデート ~ 第5巡回区控訴裁は物議をかもした判決を撤回

コネクテッドカーを対象とした標準必須特許(SEP)ライセンスをめぐり、権利保有者(およびライセンスエージェント)と自動車メーカーのサプライヤーが争う注目の事件で、新たな展開が見られました。
本コーナーで最後に紹介したのは米連邦第5巡回区控訴裁判所の判決でした(Continental Automotive Sys., Inc. v. Avanci, L.L.C., et al. 5th Cir. 2/28/2022)。 その後、この判決に対しては、コンチネンタルが大法廷による再審理を請求する一方で、自動車メーカー、業界団体、法学・経済学教授などから多くの意見書(amicus curiae brief)が提出され、大きな議論となりました。
2022年6月13日、第5巡回区控訴裁はコンチネンタルの大法廷再審理請求を担当合議体による再審理として受理したうえで、2/28判決を撤回し、翌週の6月21日に新たな判決を下したのです。

以下、経緯を振り返りつつ、2/28判決および同判決に対する反応、控訴裁の新判決について紹介します。

[事件の経緯]
原告コンチネンタルの訴えは、無線通信(2G-4G関連)SEPをパテントプールとしてライセンスする被告アバンシが、通信デバイス(テレマティクスコントロールユニット: TCU)のサプライヤーであるコンチネンタルにライセンスせず、自動車メーカーのみをライセンス対象とする行為が、誰にでも公平にライセンスするというFRAND誓約の違反(契約違反)であり、さらに反トラスト法(独禁法)違反に該当するというものでした。 とりわけ、コンチネンタルは、車1台につき15ドルというロイヤルティはTCUの価格に照らせばFRAND条件とはかけ離れた高額であり、ライセンスを受けた自動車メーカーが補償(indemnity)契約を結んでいるサプライヤーにこの高額ロイヤルティを転嫁することになる、と主張しました。
*2022年7月12日、アバンシは自社ウェブサイト上で、2022年9月1日以降に締結されるライセンス契約について、ロイヤルティを車1台15ドルから20ドルに引き上げることを公表しています。

地裁は、反トラスト法違反の訴えについて、コンチネンタルは当事者適格要件を満たしていないこと(「コンチネンタルが主張する反競争的行為は下流の自動車メーカーに向けられたものであり、上流のTCUサプライヤーに向けられたものではない」他)、仮に満たしているとしても、反トラスト法上の請求原因を主張するものではない(「特許権保有者は、反トラスト法に違反することなく、価格差別化を用いて特許価値を最大化することができる」他)として、訴えを却下しました。また、契約違反請求に対しては、契約法は州法の管轄として却下しました。(この後、コンチネンタルはデラウェアの州裁判所に契約違反訴訟を提起しています)。
この地裁命令に対する控訴を受けて下されたのが、2022年2月28日の控訴裁判所判決です。この判決は、地裁で論じられていた反トラスト法上の当事者適格や請求原因の主張について扱うことなく、地裁であまり議論されなかった合衆国憲法上の当事者適格を中心に検討し、コンチネンタルが要件となる「現実の被害」の存在を主張していない、としてコンチネンタルの訴えを門前払い(却下)したのです。

[2/28判決]
「… コンチネンタルは『現実の被害』について、以下ふたつの理論を主張した。いずれも、サプライヤーが合衆国憲法第3条の当事者適格を有することを証明するには不十分であり、ましてや、反トラスト法請求の適格性や反トラスト法違反による被害を証明するものではない。

A.補償義務(Indemnity Obligations)
『アバンシと特許保有者被告がOEMに非FRANDライセンスを受けさせることに成功した場合、このライセンスにより生ずるロイヤルティ支払い義務は、補償契約(条項)を通じてコンチネンタルへ転嫁されるリスクがある。』
地裁は、コンチネンタルが主張するこの被害は『現実のものでも、差し迫ったものでもなく』、憲法第3条適格要件を満たすにものではないと判断した。コンチネンタルの訴状(修正訴状)は、OEMが被告/被控訴人から非FRANDライセンスの締結を強要された(または強要する可能性が高い)、あるいは補償義務を理由にOEMが非FRANDライセンスのコストをコンチネンタルに転嫁した(または転嫁す可能性が高い)、という主張をしていない。あくまで「単なる被害の可能性」を陳述しているに過ぎない。
当裁判所もこれに同意する。アバンシと特許保有者被告が主張するように、コンチネンタルが主張する被害は「二重に憶測的(doubly speculative)」なものといえる…。

B.ライセンス拒絶(Refusal to License)
現実の被害に関するコンチネンタルの第2の理論は、アバンシと特許保有者被告がFRAND条件によるライセンス供与をコンチネンタルに対し拒絶したというものだ。地裁は『原告が権原を有する財産を否定されることで現実の被害が生じた』として、この理論に基づくコンチネンタルの主張に同意した。
当裁判所はこれに同意できない。本件訴答書面や関連判例に照らし、このような結論は導けない。… コンチネンタルは、FRAND条件でライセンスを受ける資格が与えられた、契約上意図された受益者(intended beneficiary)ではない。
仮にコンチネンタルが意図された受益者だとした場合でも、すなわち、コンチネンタルがFRAND契約に基づく権利を有していたとしても、SEP保有者はコンチネンタルに関しSSOに負う義務を果たしているので、契約違反はない。アバンシと特許保有者被告が当該SEPをOEMに対し積極的にライセンスしている(結果としてコンチネンタルもFRAND条件のライセンスを受けられる)ことは、コンチネンタルも認めるところである。コンチネンタルが事業を行う上で、直接SEPライセンスを受ける必要があるわけではないため、権原を有する財産を否定されたということにはならない……」

[2/28判決後]
この判決後、「自動車サプライヤーは、SEP保有者にライセンス拒絶されても文句を言えず…(Automotive suppliers can’t complain…)」といったタイトルの専門家レポート、専門誌記事が相次ぎました。そして第5巡回区控訴裁には前記の通り多くの意見書が提出されました。とりわけ、「コンチネンタルはFRAND誓約(契約)の第三受益者たりえない」や「コンチネンタルが直接ライセンスを受けなくとも自動車メーカーがライセンスを受けていれば被害がない」とした部分に対する反論が多かったようです。

2022年6月13日、第5巡回区控訴裁は物議をかもしたこの判決を撤回し、翌週の6月21日、以下のような判決を下しました。(3頁の短い判決文で、「先例とはならない」という注記もあります)
「地裁の詳細な判決を再検討し、両当事者が提出した口頭弁論と準備書面、また第三者からの意見書(amicus curiae)を鑑み、当裁判所は、コンチネンタルがシャーマン法第1条及び第2条に基づく請求原因を主張できなかったとする地裁判決を確認する。」

2/28判決の撤回と6/21判決の意味するところ、その影響についてはいろいろ見解が出されていますが、少なくとも反論を受けた前記部分の判断については白紙になりました。
なお、これと同時期の6月8日、SEP問題に関するパブリックコメントを2021年末に募集しSEP問題に新たなガイダンスを出すのではと期待されていた特許庁(USPTO)、司法省(DOJ)、国立標準技術研究所(NIST)は、この3機関が2019年に公表したSEP政策声明を撤回することを表明するにとどまり、新たなガイダンスを出すことはありませんでした。司法省も「ケースバイケースでSEP保有者と実施者の行為について検討してゆく」とのコメントにとどめています。”WITHDRAWAL OF 2019 POLICY STATEMENT ON REMEDIES FOR STANDARDS-ESSENTIAL PATENTS SUBJECT TO VOLUNTARY F/RAND COMMITMENTS” June 8, 2022 USPTO, DOJ, NIST

引き続き米国では、裁判所や独禁当局によるケースバイケースの判断を注視する必要がありそうです。コンチネンタル対アバンシ事件も引き続き展開を追い、本コーナーで続報したいと思います。

参考文献:
・第5巡回区控訴裁判所 2022年6月21日判決 https://www.ca5.uscourts.gov/opinions/unpub/20/20-11032.0.pdf
・”Brief Of Amicus Curiae Law And Economics Scholars In Support Of Petition For Rehearing En Banc in Continental v. Avanci (5th Cir. 2022)” Santa Clara Univ. Legal Studies Research Paper, SSRN Posted: 26 Apr 2022
・”Continental’s Antitrust Suit Against Avanci is Dismissed, but with Fewer Consequences for FRAND” Guest Post by Professor Jorge L. Contreras (7/7/2022 Patently-O)
・”Back to the Future: Upstream SEP Implementer Standing in View of the Fifth Circuit’s Modified Decision in Continental v. Avanci” Baker Botts, 1 August 2022
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