- カナダ
- 商標
2025.06.03
商標部 関口
2022年8月に当ニュース欄にてお知らせしましたフランス語使用強化法「ケベックの公用語・共通語であるフランス語を尊重する法律 (Bill 96 / 現 Law 14) 」によって導入された認識商標の例外規定(フランス語憲章51条1項、58条1項)が、2025年6月1日をもって施行となりました。2024年6月に改正規則が発表されたことを受け、2024年7月にINTA(国際商標協会)が同法に対する懸念を表明する書面をケベック州政府等関係各所に送付しましたが、特段の影響を及ぼすには至りませんでした。一方、コモンロー商標を認識商標と認める道は、険しいながらも残されています。ここでは、同法との関わりで、ケベック州での商標の使用における注意点を、改めて述べてまいります。
製品または、その付帯書類への表記
製品(もしくは梱包箱、ラベル、包装)または、その付帯書類(取扱マニュアル、保証書、宣伝チラシ、値引きクーポン等)における表記は、フランス語でなければならず、他言語を付記する場合、フランス語表記が他言語より同等以上に目立つ態様としなくてはならない(文字の大きさ、フォント、色等)。但し、製品自体に刻印、焼き付け、溶接等されている場合や、原産地の名称、ソフトウェアのコンテンツ、医薬品やその容器の銘刻等(一定の条件あり)は、フランス語以外の言語のみでの表記が認められることがある。また、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標は、その権利者が、同義フランス語商標の登録を有しない限り、フランス語表記の併記を免れる(認識商標の例外規定)。「周知」に該当するか否かは、取締りの担当機関であるOQLF (Office québécois de la langue française )は判断できず、商標本来の識別性の強さ、使用期間、売上高、広告宣伝費等を勘案し、裁判所が個別に判断する。既報では、2025年6月1日以降、コモンロー上の使用のみでは認識商標の例外規定は享受できないとのことであったが、裁判所の判断によっては、例外規定を享受できる可能性も残された。しかし、極めて厳しい手続きと言える。登録商標であっても、一般名称、記述的用語を含む商標は、その部分のフランス語を他言語と同等以上に目立つ態様にて付加して使用しなければならないことは既報でも述べたが、商品名、ブランド名として使用される場合は、フランス語併記を免れることとなった。例えば、登録商標が “NGB-BEST COFFEE”で、そのままブランド名としてコーヒーに使用する場合、BEST、COFFEEのフランス語併記は不要である。一方、登録商標が “NGB-BEST COFFEE / Delicious Taste” の場合、ブランド名である“NGB-BEST COFFEE” はそのままでよいが、Delicious Tasteは、登録商標の一部であっても、一般的用語と捉えられ、フランス語併記が求められると考えられる。製品等に付される登録商標における一般名称、記述的用語のフランス語訳付記については、2025年6月1日以前に製造されたものに限り、2027年6月1日までの猶予が認められている。
商業印刷物・広報
商業印刷物・広報(カタログ、パンフレット、チラシ、インボイス、ウェブサイト、ソーシャルメディアアカウント等)は、フランス語でなければならず、他言語を付記する場合、フランス語が他言語より同等以上に目立つか、フランス語版が他言語版と同等以上に簡易にアクセスできる環境等での使用としなくてはならない。但し、商業印刷物・広報が、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標を含む場合、上記認識商標の例外が適用される。また、文化的、教育的な製品、活動等に関する商業印刷物や、コンベンション、見本市等で専門的または限定的な相手のみを対象とした出版物は、フランス語以外の言語のみの使用が認められることがある。
看板・商業広告
公衆が目にする如何なる商業的メッセージも、その媒体(標識、ポスター、看板等)を問わず、フランス語でなければならず、他言語を付記する場合、フランス語表記が著しく優勢となる態様での使用としなくてはならない(フランス語のテキストに割り当てられたスペースは、他言語に割り当てられたスペースの2倍以上であること等)。看板・商業広告が、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標を含む場合、上記認識商標の例外が適用されるが、屋外での使用、または屋内であっても外から見える状況での使用の場合、フランス語での製品説明やスローガン等を付記し、主となる表示がフランス語となるようにしなければならない。尚、期間限定のイベント等の広告や、非商業的な公共の看板は、他言語のみでも許されることがある。しかし、OQLFが処理する苦情の多くは、店頭看板や屋外広告・サイネージであるとの情報もあるため、多くの公衆の目に留まる可能性のある商業的メッセージは、掲示前に十分な検討が必要である。
取締まり
管轄機関である OQLFは、フランス語憲章の違反を調査し、違反者への是正命令、ケベック州裁判所への差止命令要請、更には刑事訴追局長に問題を照会する権限を有する。調査は、OQLFが独自に行うことができるが、一般市民からの苦情によって開始する場合もある。苦情申立人の身元は明かされない。OQLFは商標の専門家ではないため、認識商標であるかの判断は、商標局発行の登録証明写しとの単純な照合であり、微妙な態様相違等の判断は難しいと考えられる。
罰則
罰則の強化は、2022年6月1日から施行済である。本法に違反し、是正に従わない等の場合は、罰金や制裁を課される可能性がある。法人の場合、一回目の違反では、CAN$3,000~30,000 の範囲での罰金が規定されており、二回目以降の違反では、倍増となる。また、営業資格の停止、剥奪等、行政上の制裁や、看板等の撤去命令が出されることもある。違反が発見された場合、当局より違反者に書面が送付され、応答期間が設けられる。使用態様の修正や撤去等、対応がなされない場合は、裁判所によって、罰則の適用可否が判断される。裁判は公開され、メディアで報道される可能性もあり、ブランドイメージの棄損となるかもしれない。尚、裁判はケベック住民による集団訴訟の場合もあり得る。
現状で推奨されるアクション(商標担当者)
・ケベック州で展開される製品に非フランス語商標が使われているかの確認
・登録商標であれば、登録された態様で使用されているか(認識商標の例外を享受できるか)の確認
・認識商標の例外規定以外の例外規定(製品自体への刻印等)に該当するかの確認
・コモンロー上の使用に拠らず、登録商標をもって認識商標とすることを検討
・登録が難しい商標の場合、躊躇せずフランス語付記での使用を検討
本稿は、公表されたカナダ当局の発表及び現地代理人からの一般情報を抜粋及び編集したものであり、細則等の情報を網羅したものではありません。また、OQLFをはじめ、関係機関が、今後どのように規則を解釈、運用するかは未知数です。ケベック州に関わる商業・宣伝行為において懸念事項がある場合は、個別事案毎に現地弁護士に相談されることをお勧めします。
情報提供:Smart & Biggar 事務所(CA)
NGB 2022年8月商標ニュース
【商標ニュース】カナダ・ケベック州 フランス語使用強化法採択 | NGB株式会社
フランス語の併記に関するOQLFによる実務ガイド
Entreprises : marque de commerce sur les produits
Entreprises : affichage des marques de commerce et des noms d’entreprises