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2022.10.05

特許部 永田智大

【特許・意匠コラム】 2022年 意匠五庁フォーラム中間会合、スペインのアリカンテで開催 ~仮想空間内における意匠~

2022年6月20日から22日にかけて、2022年意匠五庁(ID5)中間会合が開催されました。今年の中間会合は、EUIPO(欧州連合知的財産庁)が主催し、スペインのアリカンテで開催されました。
意匠五庁(ID5)会合は、全世界の意匠出願の約90%を占める五庁(日本国特許庁、米国特許商標庁、欧州連合知的財産庁、中国国家知識産権局、韓国特許庁)によって、年2回開催されています。意匠の適切な保護環境を整えるため、意匠制度に関する知財庁間の相互理解を促進し、さらなる協力関係を構築するための取り組みが行われています。

今回の中間会合では、ブロックチェーン技術や人工知能、ビッグデータ、データ・デザイン、NFT(非代替性トークン)、メタバースなどを含む新しいテクノロジーに関する情報交換がなされ、電子学習、意匠評価、意匠標識登録、メタバースの中の意匠保護を含む新しい協力プロジェクトについて議論されたようです。
この新しいプロジェクトについて現時点で詳細は不明ですので、弊社としましては、次回会合後の発表に期待したいと思います。次回会合は、10月27日から28日にかけて、ベルギーのブリュッセルで開催される予定です。

近年注目を集めるメタバースですが、やはり懸念されるのは、仮想空間内での知的財産権の扱いです。仮想空間内の物品デザインについて、現行の各国意匠法でどこまで保護が可能であり、意匠権での保護が及ばない場合にはどのような対策が必要になるのか、といったことを現時点で検討しておくことは非常に有意であると考えられます。

仮想空間内の物品デザインに対して意匠権が有効な可能性がある例として、欧州共同体における意匠登録があります。多くの国において、意匠権の権利範囲は、当該意匠が適用される物品やその用途によって限定されますが、欧州共同体では、出願時に記載する、出願意匠を適用する予定の製品に関する情報は意匠権の保護範囲に影響を与えないことが意匠理事会規則に明記されています。つまり、欧州共同体における登録意匠は、登録意匠の外観と同一・類似の全ての製品に対して権利が及ぶと考えられます。(例えば、「自動車のおもちゃ」の外観に関する登録意匠Aは、おもちゃだけでなく、Aと同一または類似する外観形状を有する「実際の自動車」に対しても権利が及ぶということです。)このような状況を踏まえると、例えば特定の物品に関する欧州意匠登録であっても、仮想空間内の物品に対して権利が及ぶ可能性があると考えられます。

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共同体意匠に関する理事会規則 (EC) No 6/2002
第36条 出願書類が遵守すべき条件
(1) 登録共同体意匠の出願には,次を含めなければならない。
・・・
(2) 更に,出願書類には,その意匠を組み込む予定であるか又は適用する予定である製品の表示を含めなければならない。
(3) 前記の他に,出願書類には次を含めることができる。
(a) 表示又は見本を説明する説明書
・・・
(d) 意匠を組み込む予定又は適用する予定の製品に関するクラス別分類
(6) (2)及び(3)(a)及び(d)に記載した構成要素に含まれる情報は,意匠自体に関する保護の範囲に影響を及ぼさないものとする。

弊社では、仮想空間内における知的財産の保護について、引き続き情報を収集して参ります。
もし、ご興味があればこちらの弊社過去記事もご覧ください。
・メタバースビジネスを視野に入れたアメリカ商標出願に関する考察

(参考)
・日本国特許庁、「意匠五庁(ID5)」
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/id5/index.html
・意匠五庁(ID5)、「意匠五庁2022年度中間会合」
https://euipo.europa.eu/ohimportal/en/web/guest/-/industrial-design-5-forum-worldwide-ip-and-new-technologies
・共同体意匠に関する理事会規則 (EC) No 6/2002
Council Regulation (EC) No 6/2002 (europa.eu)

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