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2023.10.06

特許部 牛島倫太郎 山村貴映

【2023年 米国トレーニー日記】ブラジル出張の様子紹介

2023年4月11日付の弊社記事(https://www.ngb.co.jp/resource/column/4533/)に続き、ブラジル出張の様子をご紹介します。

訪問時(2023年3月中旬)、南半球にあるブラジルのリオデジャネイロは、夏の終わりを迎えていました。気温が日中で30℃近く、夜でも20℃以上あり、朝から夕暮れ時までずっと蒸し暑い時間帯が続いていました。
限られた滞在時間のなかで、日頃から弊社と取引がある5つの事務所と、ブラジル産業財産庁(以下INPI)とを訪問することができました。主な目的は表敬訪問と意見交換です。
具体的な事務所名や詳細な協議内容の紹介は控えますが、出張を通じて得られた知見を「1.事務所訪問、2.ブラジル産業財産庁(INPI)訪問、3.その他生活面、4.訪問を通じての所感」に分けて紹介します。

1.事務所訪問
訪問した事務所いずれも、ブラジル国外の顧客の占める割合が高い(おおよそ8割以上)とのことでした。WIPO Statisticsを見ても、出願件数に占める外国(Non-resident)の割合が8割以上であることが分かります(参照 https://www.wipo.int/edocs/statistics-country-profile/en/br.pdf)。
外国(Non-resident)の中ではアメリカの出願人による出願件数が第1位であり、ドイツ、中国、スイス、日本と続いています。
ポルトガル語が母国語ですが、歴史的に移民が多い国という側面もあり、母国語以外の言語である英語やスペイン語を使って意思疎通を図っている人が少なからずいました。
また、翻訳とスペイン語コミュニケーション能力を強みとして、スペイン語圏である南米地域の他国の出願を代理する所謂ハブ機能をサービスとして提供する事務所もいくつかありました。
ブラジルでの特許実務について、どの事務所からも「特許法の改正が待たれる」との意見が出ました。本記事執筆時点で、最後のブラジル特許法改正がなされたのは1996年です。
これまでも改正の動きはありましたが、一進一退の状態が続いているとのことでした。
審査官の質や審査の遅さについても批判的な声を多く聞きました。INPIは慢性的に、審査官の人手が不足しています。本記事執筆時点で、最後に採用されたのは2016年頃だそうです。審査官も公務員であるため、民間の事務所に比べて給料が低いことが大きな理由のひとつで、途中で退職してしまう傾向があるそうです。
ただこの傾向はINPIだけでなくどの業界でも、若い世代の人ほど、短い期間で転職を繰り返す傾向にあるとの話もされていました。
少ない人手で多くの出願を審査しなければならないため、どうしても審査が遅れがちになり、また新しい技術分野をカバーできる審査官が中々現れない状態が続いている(ときにINPIから依頼を受けて技術教育を行うこともある)という現状を聴取できました。この現状に対して、ほぼすべての事務所がPPHをはじめとする様々な審査促進制度を活用することを提案していました。

2.ブラジル産業財産庁(INPI)訪問
訪問した事務所の中のひとつにお願いをして、INPIを訪れる機会を作ってもらいました。
1960年に新首都ブラジリアが完成し、リオデジャネイロからブラジリアヘ首都機能が段階的に移転していますが、訪問当時はまだ、INPIの本機能はリオデジャネイロに置かれていました。
例えば米国特許商標庁(USPTO)のように広大な土地に立派なビルをたくさん構えているというわけではなく、アクセスのし易い街中の歴史あるひとつのビルの中に、ブラジル産業財産庁はありました。
望外の事でしたが、(訪問当時)暫定のINPI長官を始め、特許部門・商標部門の責任者や事務処理担当の部門長などトップの方々との対面インタビューが実現しました。
INPI長官の発言は熱を帯びたものがありました。
「出願件数の低下、ブラジル国外からの出願数が多数を占めていること、審査の長期化、審査官の質の良し悪しといった課題を認識しており、それぞれ改善のために働きかけている。」、との説明を頂戴しました。その中でも、「現制度の改善をやらない理由はありません。限られた予算や人的リソースが少ない中でも、それでもINPIは、特許制度に勢いをつけて現状をより良いものにしたい。そのために予算の要求と審査官の数の増強を国に訴えていきます。」、と強く述べておられたのがとても印象的でした。
具体的な今後の予定も教えていただきましたが、(INPIからの公式発表ではないため)本記事での紹介は割愛します。今後のINPIの動向に期待が高まると、帯同してくれた事務所の方が話されていました。

写真:ブラジル産業財産庁(INPI)にて3.その他生活面
今回の出張で利用したホテルは、コパカバーナ海岸のそばにありました。平日であっても日中は観光客や、地元の人たちで至る所賑わっていました。夜中であっても街路や浜辺を照らす照明がさんさんと光っていました。防犯の目的もあるのだそうです。ただ、夜22時以降は危ないので出歩くなとコパカバーナ海岸周辺に長年住む事務所の方々に言われました。
他にも、外歩くときに腕時計はするな、スマートフォンは目の触れるところに長時間出すな、常にカバンに入れておけ、常に周囲に注意を払え、カバンは背負わずに前に抱えて歩け等々、色々とアドバイスを事務所の方々から戴き、なるべく従うようにしておりました。
街中は絶えず自家用車、路線バス、バイク、自転車が行きかっており、交通量が多く、夜遅くてもクラクションが絶えませんでした。そこかしこに警察車両があり、常に警察官が見張りをしていました。
コパカバーナ海岸の歴史は長く、建物の築年数も長い建物ばかりでした。若い家族は、コパカバーナから少し離れたイパネマ海岸のほうに住居を構えることが多い、とのことでした。

写真:ホテルからコパカバーナビーチを臨む
訪問した事務所のいくつかはCentro地区にオフィスを構えていましたが、リオ五輪大会の開催に伴い再開発が行われ、街並みが新しくなり、路面電車が走り、またバス便も増強されたそうです。当時整えたインフラは今でも活躍しており、公共交通機関を利用して自宅から出勤する方も多いとのことでした。
新しいビルが建つ傍らに、リオのカーニバルに使う大きな山車を保管する倉庫もあり、常にカーニバルの存在があるのだな、ということも感じました。
街中では、英語の通じる人のほうが少なく、ポルトガル語でのコミュニケーションが必要でした。ただ、フレンドリーな人が多く、言葉が通じない中でも買い物や注文をすることはできました。
面会をした事務所の所員の中に、Last name(姓)に日本人の名前がある人(日系3世)が何人もおられました。また日系ではなくても、テレビアニメや漫画、ゲームを始めとした日本の文化に強い興味があり、日本語の勉強をしているという方もおられ、片言でも日本語で会話でき、いつか日本に行ってみたいという声を聞くことができました。
ドラゴンボールや聖闘士星矢といった懐かしいアニメだけでなく、鬼滅の刃や呪術廻戦といった最近のアニメを見ているといった話をしている方もおり、アニメ文化への興味に驚く瞬間も度々ありました。Netflixなどの動画配信サービスによって日本のアニメをほぼ放映と同時に見ることが出来るようです。
日用品の物価はアメリカより安く、缶ジュースなどは日本よりも安い種類もありました。食事に関しては、肉、魚、野菜、フルーツどれも、新鮮なものが比較的安価に食べられました。
サトウキビ大国ということもあり、スイーツは甘かったです。苦みがあるはずのコーヒーも、現地の多くの人は砂糖をふんだんに入れて甘くして飲んでいました。濃く出したコーヒーにたっぷりの砂糖を入れるのがブラジル流らしく、実際にINPI訪問の際に出されたコーヒーが甘くて濃いコーヒーでした。
ただ、ブラジルの人が全員そういったコーヒーを飲むわけではなく、砂糖を入れないブラック派も一定数いるようです。

4.訪問を通じての所感
今回の滞在で、日頃から付き合いのある多くの方々と面会をすることが出来ました。 メールなどでのやり取りではなく、対面でのコミュニケーションを通じて、当初の目的である現地代理人事務所とのネットワークをより強いものとすることができたように思われます。
ブラジル特許事情については、現地代理人事務所側からの意見と、ブラジル産業財産庁側からの意見を聞くことができ、課題と展望を勉強することができました。
これらの経験を踏まえ、現地代理人とのネットワークの維持強化、情報のアップデートを随時行い、お役立ていただける実務情報の発信に努めて参ります。

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